ィ理学的時間であって、他の時間観念も実はここから導かれるのである。この宇宙的時間[#「宇宙的時間」に傍点]こそ、一切の存在(自然ばかりでなく人間社会の歴史までも含めて)の秩序[#「秩序」に傍点]を与える処のものなのである。之が自然弁証法の云わば脊髄に相当する。――処で自然科学によって見出される自然の諸法則[#「諸法則」に傍点]は、いずれもこの宇宙的時間に於て行なわれる。なぜなら、自然の根本法則[#「根本法則」に傍点]とは、この自然の変化・発展・転化の運動に於ける自然弁証法のことだったから。
 だがこの宇宙的時間に於ける根本関係を云い表わすこの根本法則(夫が即ち自然弁証法の本格的な場面だったが)は、二つの問題を有っている。一つは因果性[#「因果性」に傍点]であり、一つは宇宙の進化理論[#「進化理論」に傍点]なのだ。――因果性は歴史的存在の不可欠な内部構造であると云わねばならぬ。歴史的過程がただの並置の秩序から区別されるのは、それが正に過程[#「過程」に傍点]であり変化[#「変化」に傍点]であり、その意味に於て前後の間に一定の連続的な関係[#「連続的な関係」に傍点]が横たわる、ということによってだ。宇宙的時間は連続している。この過程・変化・連続の上に立って、一切の現状維持も静止も切断も可能なのだが、そうしたものが可能であるのは、全く宇宙的時間が線を引く歴史[#「歴史」に傍点]の連関によることだ。でこの前後の連続的な(不連続も亦その上で初めて成り立つ)関係が、一般に因果性[#「因果性」に傍点]ということなのである。――因果性を機械論的に理解すれば、それは決定論乃至宿命論となる。夫によれば、一切の個々のものが、機械的必然性[#「機械的必然性」に傍点]によって、絶対固定的に[#「絶対固定的に」に傍点]規定されつくされる[#「つくされる」に傍点]、ということが、因果性=因果必然性だと考えられる。だがそういう形而上学的な因果必然性の観念は、ハイゼンベルクの量子力学の原理にぞくする不確定性原則によって、成り立たないことが証明されるに至った*。因果性は、唯物弁証法によって一般に明らかにされている必然性[#「必然性」に傍点](それは偶然性[#「偶然性」に傍点]乃至可能性[#「可能性」に傍点]を貫く本質的[#「本質的」に傍点]で現実的[#「現実的」に傍点]なモメントのことだ)の、一つの物理的な場合に他ならなかった。だから、この点から云って、自然科学に於ける因果性の観念は必然的に、その唯物弁証法的理解へ到着せざるを得ないのである**。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
* W. Heisenberg, Die Physikalischen Prinzipien der Quantenmechanik (1930) を見よ。
** この点から見ると、唯物論[#「唯物論」に傍点]を罵ろうとする所謂偶然論者[#「偶然論者」に傍点]の見当違いが、よく判ると思う。――併し「われ誠に汝らに告ぐ、今日なんじは我と偕に天国に在るべし」。
[#ここで字下げ終わり]

 宇宙進化に就いては、天体の進化理論(カント・ラプラスの星雲説と其の後の宇宙説――之は現代に於ては各方面から長足の進歩をなし物理学的研究にとっての最も重大な源泉となっている――)と、生物の進化理論(それは地球自身の進化と平行して研究される、――生物学=古生物学=地質学)とがあることを、注意するに止めよう(之は重大であるが紙数がないので割愛せざるを得ない)。ただ地上に於ける動物の進化が、人間社会を形成する段階(エスピナは之を「動物社会」と呼んだ)に至る迄、自然そのものの弁証法の領域であることを忘れてはならぬ。そして、栽培植物や飼育動物は、技術的にマスターされた自然そのものの、自然弁証法の実証となるだろう。――自然弁証法(自然科学的世界)と史的唯物論(社会科学的世界)とが統一的に連関する環が、ここにあった。
 さて以上の自然科学的諸根本概念を貫いて、諸自然科学[#「自然科学」に傍点]はその歴史的な発達[#「その歴史的な発達」に傍点]をもつ。今まで見た諸範疇の弁証法も、諸科学の歴史的発達に於て、初めて全体としての統一を持つのである。と共に、ここから諸自然科学の統一的連関[#「自然科学の統一的連関」に傍点]を与えることも、大してムツかしいことではないだろう。自然弁証法は、自然科学的世界として、最後にこのことを要求するのである。だが之は、すでに触れた科学の分類の問題其の他に譲ることにする*。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
* ただ問題なのは数学の自然科学的世界に於て占める、科学としての位置だろう。今日の数学(総合・数解析・幾何学を含めて)が意識的に経験や実在から独立な体系を持とうと企てること
前へ 次へ
全81ページ中73ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
戸坂 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング