迴o発して連続(及び無限乃至超限)を導き出したのはカントルの集合論であったが、今日ではこの二つの規定の対立が、直観の連続に訴える直観主義(ブローエル)と公理体系のメカニズムに訴える形式主義(ヒルベルト)とになって現われている。直観主義の神秘説と形式主義の機械論の矛盾対立を止揚し得るものは、他ならぬ弁証法であるべきだが、今日の数理哲学はまだ之を実証するだけの段階に到着していない。
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* この点に就いては Die Moderne Atomtheorie(〔Heisenberg−Schro:dinger−Dirac〕)1934 参照。
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他方に於て物質は空間に解消されて消滅したと叫ばれた。相対性理論によれば物質や重力・電磁気其の他のポテンシャルは、いずれも宇宙空間[#「空間」に傍点]の各種の曲撓・伸縮に帰せられる。だが実は、この空間(物理的乃至力学的空間)は単なる幾何学的空間とは異って、実はそれ自身物質的な内容[#「物質的な内容」に傍点]を持っている。エーテルという物質概念は第一之に解消されたのであった。力の場[#「場」に傍点]がこの空間の意味であった。そしてこの場こそ又物質の新しい概念だったのである。かくて物質は場の概念によって、空間と統一される。――又相対性理論による空間規定と時間規定との、内部的な連関――対立の統一――は、非常に有名である*。
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* 空間概念の分析に就いては拙稿「空間論」(岩波講座『哲学』の中)〔本全集第三巻所収〕に多少詳しい。――最近の量子力学の発達は併し、自然科学に於ける空間的記述に関する懐疑を産むに至ったことを注意しておかなくてはならぬ。例えば N. Bohr, Atomtheorie und Naturbeschreibung (1931) を見よ。――だが之は思うに、物理学に於ける従来の[#「従来の」に傍点]空間概念が、今や変更されねばならぬということを意味するに過ぎない。
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物・物体は一つの個体である。そしてこの場合の畢極の個体は、広義に於けるアトム(エレクトロン・ニュートロン・ポジトロン・等々)である。アトムとはもはや之を分割し得ないものの謂であった、なる程之が個体(不可分――Individuum)の物理学的な意味だろう。だが生物[#「生物」に傍点]は之とは別な意味に於て、個体の性質を持っている。生物の個体は物理的にはいくらでも分割出来る。細胞は更に原形質や核や染色体や細胞膜其の他に分割できる、等々。だがそれにも拘らず、之は生物学的に一個の不可分な個体、オルガニズム[#「オルガニズム」に傍点]なのである。オルガニズムに於て不可分と考えられるものは、もはや単なる物質乃至物体ではなくて、高度に発達[#「発達」に傍点]した物質の合成による生命[#「生命」に傍点]なのだった。
生命の概念に就いては、機械論[#「機械論」に傍点]と生気論[#「生気論」に傍点]との対立が、或いは非全体説と全体説[#「全体説」に傍点]との対立が、有名であるが、この矛盾の克服は全く、生命現象に対する唯物弁証法の役割による以外に道を残さない。ここでも亦、神秘説と機械論とを止揚統一するものは自然弁証法なのである*。元来生命それ自身がディアレクティッシュなものなので、新陳代謝や疾病治療や、出生死亡等の現象が、常識的に之を告げている。
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* この点に就いては拙稿「生物学論」(岩波講座『生物学』の内)〔本全集第三巻所収〕に多少詳しい。――なお之及び之以外の領域に於ける自然弁証法の諸問題に就いては、拙稿『イデオロギー概論』及び同じく『現代哲学講話』〔何れも前出〕の中の当該項を参照。
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併し物質の第一規定が運動[#「運動」に傍点]であったことを、今思い起こさねばならぬ。と云うのは、物質は変化発展転化するのであった。之こそ物質そのものの弁証法、自然そのもの[#「自然そのもの」に傍点]の弁証法、の第一義的な場合でなければならなかった。宇宙は天体から地球、地球上の諸物質や諸生物(更には人間社会もそうだが)を含めて、時間的過程[#「時間的過程」に傍点]である。宇宙は、物質は、自然は、この歴史的運動[#「歴史的運動」に傍点]をその根本法則[#「根本法則」に傍点]としている。自然の歴史的運動こそ、自然弁証法の最も根本的で最も代表的な場合に他ならない。
時間[#「時間」に傍点]はここに特別な意味を有って来る。時間は哲学者によって様々に考えられている。心理的時間、人間史的(歴史学的)時間、神学的時間、そして物理学的時間。だがこの内根源的なものは最後の
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