烽フであったが、この科学的世界なるものは、元来実在を模写[#「模写」に傍点]した最後の帰着点[#「最後の帰着点」に傍点]であった。だから自然弁証法は、自然そのものの[#「自然そのものの」に傍点]科学的なコピーの畢極《ひっきょく》段階であった。従って自然弁証法はまず第一に自然そのものの根本的な一般的な規定を指示し云い表わさねばならぬ。それはまず第一に自然の最も根本的な普遍的な法則[#「自然の最も根本的な普遍的な法則」に傍点](之を広くその運動法則と云っていい)を意味する。自然の畢極段階[#「畢極段階」に傍点]に於けるコピー一般が自然弁証法だったから、自然そのもの[#「自然そのもの」に傍点]がこの弁証法を、その根本的な一般的な規定として、即ち法則[#「法則」に傍点]として、持っていなければならぬというのである。その限り、之は決して歴史的社会にぞくするものではなくて、存在上それに先立つ処の自然そのものにぞくする。
もし自然そのものにない処の弁証法が、自然科学的世界の根本特徴[#「根本特徴」に傍点]をなすというようなことがあるならば、自然科学は自然そのものとは全く別個な何ものかを特徴づける処の科学になって了う。自然科学はどういう権利を以て、自分自身が与え自分自身が特徴づけるものが、自然そのものではない[#「ない」に傍点]ということを証明し得るのだろうか。
処がそれにも拘らず、自然弁証法によって特徴づけられるこの自然科学的世界は、科学的方法と科学の社会的諸規定(含蓄ある意味でのイデオロギー性)との、人間史的所産であった。して見れば自然弁証法は、単に自然そのものの根本的一般法則であるだけではなく、自然に関する認識[#「認識」に傍点]の、自然科学[#「科学」に傍点]の、根本原則でなくてはならぬ。即ちこの場合の自然弁証法は、一方に於ては自然科学の一般的な方法[#「方法」に傍点](従って又体系[#「体系」に傍点])を指し示すと共に、他方に於てかかる方法による体系としての自然科学が一つのイデオロギー(社会構造に於ける上層の存在)にぞくする所以をも、その内に含蓄しているわけである。でこの点から規定すれば、自然弁証法は、自然そのものの[#「自然そのものの」に傍点]弁証法であるばかりでなく、自然科学の[#「自然科学の」に傍点]弁証法だと云わねばならぬ。――而もこの二つの規定(自然そのもののと自然科学のとの)が同じ自然弁証法自身だという点に、自然弁証法なるものが自然科学的世界[#「世界」に傍点](それは自然という現実の世界[#「世界」に傍点]の最後のメーキァップに他ならぬ)を特徴づける所以が存する。
自然科学の(一般に科学の)方法も、第一次的には自然現象そのものから、併し第二次的には自然科学の社会的規定・イデオロギー性によって、規定される、ということをすでに述べた。だから、この「自然科学の弁証法」としての自然弁証法は、その方法としての規定の一部分までも入れて、イデオロギーとして限定されている処のものに他ならない。之はその限り、歴史的社会的存在=社会にぞくする重大な側面を、常に保持している。――でそうすれば之は明らかに史的唯物論[#「史的唯物論」に傍点]の内容にぞくする側面を手離すことが出来ない約束の下に置かれている、ということになる。ここに自然弁証法そのものの内に、史的唯物論の一部面と一致するものが存するという、第一の連関が横たわるのである。――自然科学は一つのイデオロギーであった。従ってその限りその弁証法は直ちに史的唯物論にぞくする。
だがそれだけではない。元来自然と社会との自然史的連関づけの仕事は、他ならぬ労働の役割[#「労働の役割」に傍点]だったのである*。自然が発展して人間的社会にまで上昇するのは、つまり猿から人間を区別するものは、労働(生産の又生産手段生産の)なのである。そしてこの労働の諸手段の体系が技術的なるもの[#「技術的なるもの」に傍点]であることはすでに述べた。であるから自然と社会との自然史的連関[#「自然史的連関」に傍点]は、この技術的なるもの(便宜上[#「便宜上」に傍点]「技術」と呼んでおく――但し夫が正確でないことに就いては前を見よ)を介して成り立つ。従って又、自然が社会の内にとり入れられるのは、正にこの技術によってなのである。自然は社会に存在する技術によって部分的に順次にマスターされる。だから自然と社会との云わば社会的な[#「社会的な」に傍点]連関も亦、この技術を介して与えられる。――自然科学の弁証法としての自然弁証法に含まれる例の社会的規定性・イデオロギー性も亦実は、この技術と離れては考えられない。
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* エンゲルス「猿の人間への進化における労働の役割」(エンゲルス『自然弁証法
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