傍点]と呼んでもいいだろう)。最後に之を見よう。
[#改段]
六 科学的世界
科学が実在を認識(=模写・反映)する最後の段階、その総結果、夫が科学の「世界」、科学的世界[#「科学的世界」に傍点]である。之は科学的諸世界像の統一のことであり、科学的世界観の客観的内容のことである。実在そのものが唯一無二の世界である通り、之も亦唯一無二のものでなければならぬことが、その理想である。客観的真理[#「客観的真理」に傍点]の内容が之だからである。――処が、存在が自然と歴史的社会とに区別されるように(そして区別の実在的根拠とその連関とをすでに述べた)、科学も亦自然科学と社会科学(之には歴史科学其の他が含まれる)とに、根本的に区別されねばならぬ。その所以も亦すでに述べた。そこで科学的世界も亦、自然科学の夫と社会科学の夫とに、一応根本的に区別されることが出来る。前者の特徴を云い表わすものが自然弁証法[#「自然弁証法」に傍点]で、後者の特徴を云い表わすものが史的唯物論[#「史的唯物論」に傍点](唯物史観)である。
自然弁証法と史的唯物論との連関は、他ならぬ唯物弁証法[#「唯物弁証法」に傍点]乃至弁証法的唯物論[#「弁証法的唯物論」に傍点]によって与えられる。正当な意味に於ける唯物論、或いは正当な意味に於ける弁証法が、両者の統一媒介を可能にする。そういう意味に於て、自然弁証法と史的唯物論とは、弁証法的唯物論の、夫々自然と社会とに就いての、二つの部門であると云っていい。――だがここにすでに問題が横たわっている。
云うまでもなく吾々は、唯物弁証法一般[#「一般」に傍点]なるものを考えることが出来る。吾々は之を使って物を考え又物を云わねばならぬと考える。之は明らかに、まず第一に思惟[#「思惟」に傍点]の法則としての唯物弁証法だ。処でこの思惟法則が自然に就いての自然科学と、社会に就いての社会科学とに、夫々適用される時、夫が自然弁証法と史的唯物論だ、という風にも考えられる。つまり唯物弁証法には三つあって、思惟の弁証法と、之が特殊化(具体化・適用・其の他)された自然の弁証法と、社会の弁証法とに区別される、ということになる。
だがこの云い方には或る根本的な誤りを暗示するものが含まれている。云い方は実はどうでもいいのだが、その云い方から惹き起こされる色々の帰結に、重大な誤謬が混入して来るのである。元来思惟が思惟であるためには、ただの観念や表象や又空想であってはならないので、云うまでもなく認識でなくてはならぬ。と云うのは、実在の反映・模写でなければならなかった。そうすると、思惟一般の根本法則(夫が唯物弁証法一般だったわけだが)は、無論この実在の根本法則に照応すればこそ、初めて思惟[#「思惟」に傍点]の根本法則でもあり得たわけだ。従って、思惟一般は、最初からそれ自身としてまず横たわる処のものではなくて、却って実在の具象的な諸認識、人類の総経験、の歴史的所産として初めて抽出された、一結果に他ならない。之は一切の認識がそれに基く処の想定ではあるにしても、この想定自身が却ってこの一切の認識の所産だったのである。して見るとここから明らかなように、思惟一般の弁証法がまず第一にあって、夫が自然に関する又社会に関する思惟にまで適用されて初めて、自然弁証法と史的唯物論とが成立するかのような[#「かのような」に傍点]云い表わし方は、何と云っても誤りでなくてはならぬ。
実はまず初めに自然弁証法と史的唯物論とが何等かの過程を通じて(ここにも亦同じ形の問題が伏在しているが)、成り立つべきであって、それからの抽象物として初めて、思惟一般の弁証法が成り立つ、という風に云わなくてはならぬ。そうしないと、認識=思惟が実在の反映であるという唯物論的な認識理論の根本が、正当な権利を主張出来なくなるからだ。つまり夫だけ弁証法に対して観念論的な見解を混入することになるからである*。
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* 思惟一般の根本法則としての唯物弁証法一般をまず想定しておいて、之を自然に対する思惟(自然科学)や社会に対する思惟(社会科学)に適用しようと考えれば、それが可能であるためには、弁証法はこの二つの科学に於ける天下り式の方法[#「天下り式の方法」に傍点]である他はなくなる。科学に於けるこの天下り式方法を自然弁証法や史的唯物論だと見做すのが、デボーリン主義として批判された方法論主義[#「方法論主義」に傍点]である。――だがこのことは、自然弁証法や史的唯物論が持っている科学の実際的な方法[#「実際的な方法」に傍点]としての意義を、少しでも軽んじるということではない。科学の方法によらずには何等の科学的世界も成り立たない。科学的世界に於ける方法の最も重要な役割を見落すことは全
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