ての観念界を意味する。而も之は第二に、単に個人々々の観念・意識の世界だけに止まらず、却って社会に於ける一定の人間群の意識(社会意識[#「社会意識」に傍点])を指す。その結果第三に、個人の意識も亦この云わば社会自身が持つ一定形態の意識の内に包摂されることが出来る(之が意識形態[#「意識形態」に傍点]としてのイデオロギーとなる)。第四にこのようなイデオロギーは社会階級の現実的な利害に対応する階級性[#「階級性」に傍点]をもつ。だがそれであるが故に却って第五に、対立した二つ以上のイデオロギーの内、一方は真理で他方は虚偽だということになって、一般にイデオロギーは真理意識[#「真理意識」に傍点]、乃至虚偽意識[#「虚偽意識」に傍点]を意味するようになる。――以上の諸規定を結合すると、政治意識としての、又は思想的傾向[#「思想的傾向」に傍点]としての、イデオロギーの意味が判然となる(イデオロギーという言葉がド・トラシの観念学から出て、どういう変遷を経て今日の意味のものになったかに就いては、今は省こう)。
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技術的[#「技術的」に傍点]な規定(併しまだ所謂技術[#「技術」に傍点]そのものではない)は生産力の最も重大な規定の一つである。尤も技術性が生産力の唯一の規定だというのではない、仮に技術性で以て生産力の規定の凡てを蔽うて了うならば、社会の現実的根柢は技術性(普通之をルーズに技術と呼んでいる)に帰着することになって了うだろう。そうするとそこから、各種の技術史観や技術家至上主義などの技術主義が結果することになる。この結果のナンセンスであることは、一方では、その場合用いられる技術(?)という概念が不確実で無統制であるという事実に於て、他方ではそうした概念を適用したこの結論が実際問題の解決に当って示す奇説や見当違いに於て、之を検証することが出来る*。生産力の規定は技術性にだけあるのではない、抑々この技術性が基かねばならぬと考えられる処の規定である生産性[#「生産性」に傍点]こそ、その第一の規定でなければならなかったろう。だから技術性[#「技術性」に傍点]は生産力の一規定に過ぎないと云わねばならぬ。処がこの一規定に過ぎない技術性が、イデオロギー(科学はその内に含まれる)の問題から云えば、一等大切なのである。
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* シュペングラーの技術主義的な歴史的予言、西欧(アメリカも同じだが)の文明は技術的であるが故に今行きづまりと没落とに瀕している、技術を超越した東洋思想こそ歴史の新しい段階へ導くものだ、という。アメリカのテクノクラシー(日本では最初の一カ月は極度に問題にされ次の一カ月には全く忘れられた)は、生産技術家の社会管理を提唱する。――こうした歴史理論や社会政策論が、圧倒的に盛りあふれる今日の現実問題を、てんでマスター出来ないことは、今更説明を俟つまでもない。
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生産力の技術性は処で、生産力の例の三つの内容に即して見出される。第一は労働手段に就いてである。普通、「技術」とは労働手段の体系のことだと考えられている。労働手段と云えば道具・機械・又工場施設・交通施設其の他などを、指すのであるが、それの体系というものが、もし仮に結局矢張り、之等労働手段自身のことを意味するにすぎぬなら、機械が技術でないと同じに、労働手段の体系が技術だという概念の決め方は見当違いでなくてはならぬ。併し又、もしこの体系という言葉が、個々の労働手段の加算以上の何かのプラスを意味するのなら(無論そうなければいけないだろうが)、この何等かのプラスなるものが何かという疑問が残るのである。そして単に、技術が労働手段の体系だと云っただけではこの疑問を解くことは出来ない。この何等かのプラス、「体系」という言葉が云い現わすXは何等か技術的なもの[#「技術的なもの」に傍点](単なる道具や機械ではなくて之に体系的に結びついた処の)だとでも云う他はあるまい。だがこれでは、「労働手段の体系」というのは、技術を説明するものではなくて、却って逆に、「技術的なもの」によって初めて説明され得るような観念でしかない、ということになる。
思うに、労働手段の体系は、所謂技術そのものではなくて、単に技術的なるもの[#「技術的なるもの」に傍点]、生産力にぞくする労働手段に於ける例の技術性[#「技術性」に傍点]、の表現でなければならないだろう。生産力の一定の技術性(技術自身ではなく)こそ、「労働手段の体系」が云い表わす現物なのである。では所謂技術・技術そのもの、とは何かというと、之は単に生産力や或いは又それの直接の結果であり形式である処の生産関係などの領域だけに止まらず、広く社会的規模[#「社会的規模」に傍点]に於て理解され
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