材料を単に瑣末に至るまで習得し収集するだけではなく、更にその色々の発展形態を分析し、そして更にこの諸形態間の内部に横たわる連絡を嗅ぎ出すこと、でなければならない。と云うのは、科学の研究方法は法則[#「法則」に傍点]・公式[#「公式」に傍点]・原則[#「原則」に傍点]の導来となって現われなければならなかったということだ(前の法則の個処を見よ)。――研究手段の上に、研究様式が君臨する所以である。
 さて科学の研究様式[#「研究様式」に傍点]の分析はこうだとして、以上述べた操作と研究様式との結果を、一定の科学的な形態の下に叙述するのが叙述様式[#「叙述様式」に傍点]・叙述方法[#「叙述方法」に傍点]である。これについて云うべきことが沢山あるが、今は省略せざるを得ない。

 最後に注目すべきは(マルクスの方法がそうだったように)、その研究様式も叙述様式も、常に弁証法的論理[#「弁証法的論理」に傍点]によって貫かれる必要があることだ。一切の科学の方法の最後の意味は、論理[#「論理」に傍点]にあった筈だが、論理は弁証法的であることによって初めてその生きた具体性と活動性とを有つことが出来るからである。――処でこの方法としての弁証法的論理は、科学と実在との関係に就いて述べた処に従って、実は実在乃至対象そのものの根本性質に照応するものでしかなかった。それであればこそ、この方法による科学が、その真理性を受け取り確保することが出来るのだった。――科学の一般的方法[#「一般的方法」に傍点]は(唯物)弁証法である。
 以上が実在の模写に於ける科学的認識構成[#「認識構成」に傍点]の重な一半(科学の方法という)である。科学的認識構成の他の副次的な一半は(併し之とても理論的にも実際的にも右に劣らず重要なのだが)、科学の社会的歴史的根本制約[#「科学の社会的歴史的根本制約」に傍点]・そのイデオロギー性質[#「イデオロギー性質」に傍点]であった。
 実在[#「実在」に傍点](対象[#「対象」に傍点])――方法[#「方法」に傍点]――イデオロギー[#「イデオロギー」に傍点]、この三者の云わば相乗積は、科学の世界、科学のもつ科学的世界[#「科学的世界」に傍点]、である。実はそこまで行って科学の方法も、その目的を果すのである。――で、吾々は科学的世界を取り上げる前に、「科学と社会」との関係を、見なければならない。
[#改段]

  五 科学と社会


 科学が実在[#「実在」に傍点]を模写することは、之を具体的な実質的な反面から云えば、科学が認識を構成[#「構成」に傍点]することだったが、この科学的認識構成の第一の内容は、科学の方法であった。そしてその第二の内容が科学の社会的規定[#「社会的規定」に傍点]、社会に於ける科学の存在条件[#「社会に於ける科学の存在条件」に傍点]である。或いは之を科学の歴史的規定ともそのイデオロギー性[#「イデオロギー性」に傍点]とも呼んでいい理由がある。と云うのは科学は、社会に於ける歴史的一存在物である限りに於て、他ならぬ一つの乃至一定種類のイデオロギーに他ならないからだ。
 科学の方法は、その弁証法的な研究方法と叙述方法とに於て見られたように、それ自身論理にぞくする。処が之に反して、科学の社会的[#「社会的」に傍点]規定は、科学のこの論理的[#「論理的」に傍点]規定と対立していると、そう少なくとも普通は考えられているのである。だがよく考えて見ると、科学のこの社会的規定が科学的認識[#「認識」に傍点]構成の条件であった以上、科学のこの社会的規定と雖もその論理的規定と独立であってはならない筈だ。科学のイデオロギー性とは実は、科学的認識の社会的条件が、如何に科学的認識の論理的構成に反映するかということを、物語る言葉でなくてはならぬ。――では、科学のこの社会的規定・イデオロギー性は、どういう姿で現われるか。
 人間の歴史的社会は、後に説明するように、史的唯物論に従えば、その現実的な根柢を生産力[#「生産力」に傍点]に持っている。生産力は労働力と労働手段と労働対象とからなっているが、一般にイデオロギーは、まず第一にこの生産力によって最も基柢的な限定を受ける*。人間の物質的生産活動がその人間の物の考え方を規定するということは、見易い道理であるが、それが特に一定社会の一定時代の人間大衆についてであれば、この点益々顕著になる。だが今、生産力が特にそれの持つ技術的[#「技術的」に傍点]な側面を通して、イデオロギー一般を規定するものだという点を、注目しなければならない。
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* イデオロギーという言葉の意味に就いては、私は至る処で説明してきた(前を見よ)。それは第一に社会に於ける上部構造[#「上部構造」に傍点]とし
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