ての皮相な理解に基くものでしかないことが判る。自然科学と雖も夫々の部門について又夫々のテーマについて纏められた結論が、科学的認識の発達に貢献する所以を明らかにするためには、その認識の歴史的由来[#「歴史的由来」に傍点]を、正確に検討してかからねばならぬことはあきらかだ。自然科学各部門各テーマの系統的研究は、この意味で科学史的[#「科学史的」に傍点]研究を俟たずには真に科学的[#「科学的」に傍点]ではあり得ない。科学の実証的、実験的、研究にとっても科学史的研究は不可欠であり、これに基いた科学の真に歴史的研究[#「歴史的研究」に傍点]であって初めて、唯一の本格的な科学的研究になると云わねばならぬ。自然科学にとって、云わば科学前[#「前」に傍点]的な認識論的省察が必要だとか、世界観の検討が要求されるとかいうことも、皆この点に帰着することを見透さねばならぬ。自然科学研究にとって、文献乃至引用の精神が持つ役割は、このように意外な重大性をもっている。
 文献の自然科学研究に於ける役割は併し、元来極めて健全なものだということが出来る。と云うのは、この場合の文献的精神、引用の精神は、実証的な、実験的な
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