く[#「面白く」に傍点]する方法の一つだ。理論的分析も一つの文章となる限りは修辞の性質も持つのだから、この点関心に値いしないのではないが、併しそれは少なくとも、科学的に必要[#「科学的に必要」に傍点]な引用ではない。必要なのは寧ろ、科学的な引用と随想的引用とを、厳重に区別して使い分けることにあるだろう。

 さて私は引用について少し長く述べすぎたようだ、元来、目的は引用にあったのではない。或いは寧ろ、目的は所謂引用というものだけにあったのではない。引用の精神[#「引用の精神」に傍点]が、従って又引用の正しい精神ばかりでなく引用の誤った精神[#「誤った精神」に傍点]が、思想、科学、其の他の文化技術の至る処に、意外な支配力を有っていることを指摘したかったからのことだ。
 引用とは取りも直さず文献[#「文献」に傍点]の引用――形式的な又は内容的な――である。だから引用を科学的に意義あらしめるのも文献の役割ならば、引用を科学的に無意味・有害・ならしめるものも文献というものの魅惑なのだ。引用とは単に文章の書き方の上にばかりある問題ではない。元来物の考え方、検討の仕方、そのものに於ける引用精神[#
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