全体に回転運動を与えるとしたのは誤りである。後者は力学上不可能でありラプラスの如きは回転運動は始めから与えられたものと見た。併し此の点を除いてはたとえ今日に至るまで天体の発達史の確実な見方が得られないためにこの仮説が如何なる範囲に於て正当であるかを決定することは出来ぬとしても、この仮説の核心そのものの正しい事は疑うべくもない。風の理論其の他に関するカントの仕事を数え尽すことは茲では不可能であるであろう。ただ最後に生物界に就いての研究を一言しなければならぬ。カントは嘗て有機体の形態が不変であるか変化し得るかの問題を考察したことがあるがそれは「種々なる人種に就いて」にも論じられてある。又後に至って今日の進化論の思想を単に漫然とではなく実に疑う余地のない程明らかに述べている。ただそれがあまり知られないのはカントがこの問題を独立に論ぜずただ判断力批判の処々で触れているに過ぎないためでもあろう。何れにしてもカントの自然科学上の仕事の特徴を明らかにすればそれは彼が主として思想家[#「思想家」に傍点]であったという処にある。而も彼は与えられたる事実を鋭利に確実に追求する思想家であるばかりではなく又自
前へ 次へ
全25ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
戸坂 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング