搖wや化学に於けると同じく、例えば哲学や社会科学又更に文芸や宗教などとは異って、「イデオロギーの社会学」――ジャーナリズム・アカデミズム・機構――はあまり問題にならないから之を省こう。)

 自然科学[#「自然科学」に傍点]に於けるイデオロギーに就いて。――今世紀の初頭から、時間や空間、物質やエネルギー、に関する概念を次第に訂正しなければならなかった物理学[#「物理学」に傍点]は、この七八年来、遂に因果律に対する疑問にまで到着した。処が因果律の問題は、古来、自由乃至自由意志の問題と切っても切れない縁故があるという点からだけ云っても、物理学にとっては之程公共的な問題はないと共に、又之ほど致命的な問題はない。物理学に於けるイデオロギー性は、現在、この問題に連関して、そして物理学者の哲学イデオロギーを通じて、鮮かに明るみへ暴露されつつある。
 何時の時代を取って見ても、物理学の世界では――尤も何処でもそうだが――様々な異説が対立していた。例えば光の粒子説や波動説、熱に関する熱素説や熱量説、等々。だがそう云った諸説の対立は云わば物理学の内部だけの問題であって、必ずしも直ぐ様外部との交渉に影響し
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