鴻激^リア・ジャーナリズムの内から、待望されることが出来るだろう。
 プロレタリア・イデオロギーはルーズな意味でも大衆のものである。そして一般的に云えば、ジャーナリズムも亦元来そうした意味での大衆のものだったのである。今日のアカデミズムは処が封建的貴族と資本主義的貴族とのものであった。だからイデオロギーに於けるかの矛盾を止揚するものは、まず第一に、プロレタリア・アカデミズムよりも先に、プロレタリア・ジャーナリズムでなければならないのは当然である。――だがプロレタリア・ジャーナリズムとは何か、それは大衆化[#「大衆化」に傍点]の外ではない。
 ジャーナリズムは普通、通俗化・啓蒙・又は俗流化とさえ考えられている。ブルジョア・ジャーナリズムならば、確かにそういう規定でも一応は捉えることが出来るだろう。だがプロレタリアのジャーナリズムはもはやそのようなものではないし、又あってはならない。一体人々は大衆という概念を勝手にルーズに用いるのではなく充分に科学的に用いなければならぬ*。それはプロレタリア階級に組織された又はされるべき民衆を意味すべきものである。大衆化とはだから外でもない、プロレタリアの組織化[#「組織化」に傍点]に外ならない。プロレタリア・ジャーナリズムとは、ただこの意味だけに於ける大衆化だったのである。――この大衆化の進み行く先端にそして、プロレタリア・アカデミズムも亦横たわるだろう、その暁にはアカデミズムとジャーナリズムとが、初めて本来の正常な有機的連関に、現実的に到着するだろうと考えられる。
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* 拙著『イデオロギーの論理学』の内の「科学の大衆性」【本巻所収】の項を参照。人々はジャーナリズムを問題にしつつ往々大衆の概念に触れるが、ジャーナリズムの概念が理論的に分析して用いられていないと同じく、大衆という言葉も全く個人的な思い付きから意味を与えられているに過ぎない場合が多い。
[#ここで字下げ終わり]

[#3字下げ]四[#「四」は小見出し]

 イデオロギーの社会学[#「イデオロギーの社会学」に傍点]として、少くとも吾々は一応、以上のようなジャーナリズム=アカデミズムの対立と連関とを指摘出来たが、元々この「社会学」は、それ自身だけで独立な根拠を持てるのではなくて、その根柢が[#「根柢が」は底本では「根抵が」]、かのイデオロギーの論理学[#「イデオロギーの論理学」に傍点]に、何かの仕方で結び付かなければならない筈であった――前を見よ。それを見るためには併し、ジャーナリズムとアカデミズムとのイデオロギー的機能[#「イデオロギー的機能」に傍点]を(そしてイデオロギーは論理によってその骨髄を与えられる筈だったことを思い起こそう)、もう少し立ち入って検べて見なければならない。
 ジャーナリズムのイデオロギー的機能は、その批評性[#「批評性」に傍点]に求められる。ジャーナリズムは、それがどのように専門的なアカデミカルな事物を取り扱うにしても、常に之を評論的視角[#「評論的視角」に傍点]から取り上げねばならぬ。それは文芸批評[#「文芸批評」に傍点]として又学術評論[#「学術評論」に傍点]として、特色を現わす。だから文学とか哲学とかいう、それ自身批評的・評論的・性格を担っているものは、それが優れたものである場合、多くジャーナリスティックな特色を持っていることが事実である。カントの批評主義[#「批評主義」に傍点]の哲学が甚だ能く読まれたなどは無意味ではない。――アカデミズムのイデオロギー的機能は之に反して、その実証性[#「実証性」に傍点]に求めることが出来るだろう。と云うのは、批評性は或る意味に於ける否定[#「否定」に傍点]であり、一般的には積極的な建設の反対であるが、この否定の反対としての肯定を吾々は実証性[#「実証性」に傍点](Position)と名づけておこう。オーギュスト・コントは実際、その実証主義をこうした批評主義に対立させている。分科的諸科学は、自然や歴史的社会に就いて、之を直接な生まな材料として、ひたすらに探究[#「探究」に傍点]する、それは必ずしもこの直接で生まな材料に基く諸探究を総合したり媒介したり秩序づけたりしない、要するに必ずしも批評[#「批評」に傍点]しないのである。――以上のことは、ジャーナリズムが常識[#「常識」に傍点]のものであり、之に反してアカデミズムが専門[#「専門」に傍点]のものであったことからも、至極自然に理解出来る。
 だが無論のこと、この批評性の機能と実証性の機能とは、単に今云ったように区別対立しているだけではなくて、至極複雑ではあるが、併し一定の連関関係に這入っていなくてはならない。二つのものは実は、一つのイデオロギーの二つのモメント[#「二つのモメント
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