ソ的生産力による生産諸関係――それを人々は経済[#「経済」に傍点]関係とも社会[#「社会」に傍点]関係とも名づける――が、歴史的社会の全構築物(技術・経済・政治・法制・諸文化・諸観念を含んだ)に於て、終局の決定要因をなしている。この全構築物に於ける一切の作用の交互関係[#「交互関係」に傍点]は、この一方向きの規定関係によって、初めて統一的に組織的に秩序立てられることが出来る、と云うのである。さてこの社会に於ける生産諸関係が決定要因となって、この決定要因によって決定されるものを唯物史観乃至マルクス主義は広くイデオロギー[#「イデオロギー」に傍点]と呼ぶ。蓋し社会の全構築の基底をなすもの――下部構造[#「下部構造」に傍点]――が生産諸関係であり、それの上に依って立つ構築物――上部構造[#「上部構造」に傍点]――がイデオロギーだ、と一般的にまず規定しておいてよい。
処で社会の全構築に於て、今基底にあると云ったものは、単にマルクス主義に依ってばかりではなく、何かの意味で物質的なものと考えられているだろう。仮に之までをもなお心的[#「心的」に傍点]・観念的[#「観念的」に傍点]・意識的[#「意識的」に傍点]なものと考えてみても、この下部構造と上部構造とを区別するものとして、この下部構造に於ける意識(一般的に之を代表者として)の物質的特色を指摘しなくてはなるまい。例えば衝動や本能[#「衝動や本能」に傍点](M・シェーラーやマクドゥーガル)は、これに基く精神的[#「精神的」に傍点]なものに対して、物質的と考えられている。――で下部構造がそうだとすれば、上部構造は、何か心的・観念的な性質によって特色づけられるのが当然である。だから人々は、この上部構造を捉えて、社会の「精神史」を描いたり、「文化史」や「文明史」を書こうとするのである。こうした云わば社会的なる精神、社会的人間の意欲の所産、この上部構造としてのイデオロギー、之は取りも直さずかの社会的意識[#「社会的意識」に傍点]を云い表わすに最も適切で普遍的な概念でなければならぬ。
イデオロギーの概念がマルクス主義によって見出されたために初めて、意識の問題は、生きた具体的な歴史的規定の下に、提出されることが出来る。――だがイデオロギーの概念はこう云っただけではまだ決して明らかではない。
イデオロギーと云う言葉は可なり不思議な意味
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