あろうと――を特に注目することによって、その事物の理論的乃至実際的な処理を進めることが出来ると見られる時、その性質は顕著なるものとして見られる。であるからどの性質が顕著であるかは実は、事物それ自身に固有な作用範囲の配分ではなくして、その事物が人々によって理論的にか実際的にか取り扱われ得る通路を媒介とする勢力の消長でなければならないのである。事物の無限の諸性質は之を取り扱う通路に於て、顕著の秩序に並列される。さて顕著なる性質Aは無論、顕著ならぬ性質Bとは別でなければならない。併しそれにも拘らずAはBを――又Bと同じ資格をもつCD……を――代表[#「代表」に傍点]することが出来る。もし事物を言葉通りに具体的に定立しなければならないとすれば、AはあくまでBとは性質を異にする筈であったから、AがBを代表するということは許されないわけであろう。それ故之が許される以上茲に事物の抽象が成り立っているのである。処が事物を抽象することこそ具象的な事物を把握する唯一の途であるであろう。事物の把握を顧みずに、即ち事物への通路を顧みずに、事物そのものを決定し得るならば、抽象しないことこそ具体的であるであろう。
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