一つの立場は、立場としての立場[#「立場としての立場」に傍点]は、もし今仮に立場としての資格を等しくする他の一つの立場があるとすれば、之に対しては勝敗を決することが原理的に不可能であるであろう。そしてそのような、等しい資格で而も異った立場[#「等しい資格で而も異った立場」に傍点]が、実際あるのである。
 併しそれより先に、立場とは何か、又立場としての立場とは何を意味するか、人はそう問うに違いない。吾々はそれに答える。人々は立場を様々に形容する、高い立場・低い立場、深い立場・浅い立場、広い立場・狭い立場、具体的立場・抽象的立場、等々。処が例えば麗わしい立場・善なる立場、等々は稍々正常な言葉ではないであろう。立場はそれ故前に挙げた諸規定(又はそれに類する)によってのみ形容されるべき概念であるに違いない。そこで人間の論理はこの時、高さ低さ、深さ浅さ、広さ狭さ、具体的抽象的、等々そのもの[#「そのもの」に傍点]を以て、立場の概念そのものと等値することが出来るのである。人々が普通持っている立場の概念は恐らく之ではないか。処が高さや低さは、立場の規定には限られない、高き霊・低き霊という言葉は、立場の場合と等しい資格を以て――それ以下の資格を持つ意味に於てでもなくそれ以上ででもなく――語られる(深さ浅さ、広さ狭さ、等々に就いても亦同じ)。そうすれば、今云った立場の概念はまだ科学的に(理論的に)洗練されないという意味に於て、単なる立場[#「単なる立場」に傍点]であったであろう。之に反して、立場らしい立場にまで洗練され、科学的(理論的)に行使し得るように規定されたる立場概念、それが立場としての立場[#「立場としての立場」に傍点]の意味である。それで何が、このような意味に於ける立場としての立場であるのか。吾々はそれを立場の整合[#「整合」に傍点]――Konsequenz――に於て見出す。理論の内部に於ける――外部との関係は一応何でもよい――首尾一貫、矛盾からの従って攻撃からの自由、理論のこのような何か形式的なるもの、之が人々と吾々とに科学的に役立つ立場の概念、立場としての立場[#「立場としての立場」に傍点]の概念なのである。具体的な立場に立たねばならない、某々の立場はまだ抽象的でしかない、人々は好くそのような言葉を口にする。併し何が抽象的であり何が具体的であるかは、想像されている程自明なことではないから、それを決定する独立な標準が他になくてはならぬ。処がこの標準というのが人々が想像するように立場――それは整合であるべきであった――なのではない。そこには立場以外の概念が必要であることを人々は認めないわけには行かぬであろう(以上のことは深刻・浅薄、高貴・卑賤、等々に就いてその通りに通用する)。立場以外のこの概念――例えば如何いうことが具体的(又は具体的立場)であり何が抽象的(又抽象的立場)であるかを決めるものこそ之である――は何であるか。之を決めることが吾々の目指す目的なのであるが、そこに行き着くための用意として前に一つの主張を掲げておいた。曰く、等しい資格で而も異った立場[#「等しい資格で而も異った立場」に傍点]があるのであると。但しこの場合立場が正に、立場としての立場――整合――であることは、今述べた処である。さてそのような場合の立場は何処に在るか。その代表的な一例を立場としての――他のものとしてのではない――絶対主義[#「絶対主義」に傍点]と相対主義[#「相対主義」に傍点]との対立に見出す*。
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* あり得べき多くの立場の内、何故特に、絶対主義と相対主義とを代表的なものとして選んだかは既に意味のないことではない。その意味を後に明らかにする。
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 絶対主義的立場(整合)と相対主義的立場(整合)とはその根柢的な論争にも拘らず、勝敗を決定することが遂に原理的に不可能である。吾々が独善的であるかそれとも又適宜の点に於て妥協的でない限り、之が際限なき水掛論に陥ることを、吾々は常に経験している。論争解決の事実上の困難[#「事実上の困難」に傍点]は、茲にその原理上の不可能[#「原理上の不可能」に傍点]にまで転化されるのである。それでは本当に[#「本当に」に傍点]勝敗の決定が原理上不可能となる場合を承認しなければならないのであるか。併し又そうすることはとりも直さず、相対主義という一つの立場[#「立場」に傍点]の主張となるように見える。そして再び絶対主義という立場[#「立場」に傍点]との水掛論を始めなければならないように見える。――併し断定を急いではならない、茲には恐らく何かの罠がある*。
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* 理論の罠・トリックは、意識的又無意識的に犯される処の、隠
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