に理論出来ないであろうか。もし出来るとするならば、それは性格概念なるものがこの種類の理論に於て性格的[#「性格的」に傍点]に機能し得る証拠であるであろう。
 最後に注意すべきは、形式論理学[#「形式論理学」に傍点]――それは非性格的である――をば、それが形式性を持つにしても持たないにしても、性格的なるものにまで拡張しなければならない、ということが必然的に要求されることである。何となれば吾々は已に概念[#「概念」に傍点]を二つの種類に区別することによって、性格的概念――それは従来の形式論理学に於ける概念とは異る――を有ち得たからである。そして之は又判断[#「判断」に傍点]乃至推論[#「推論」に傍点]に就いてもそのまま行われるであろう。理解――性格的理解を他から吾々は区別した――とは形式論理学に於ける判断乃至推論に相当するであろうから。真理の概念も亦性格的なるものにまで及ぼされなければならない。恐らく吾々は性格的な論理法則を必要とするであろう。処が恰も吾々にとって最も興味あるものは形式論理学に於ける虚偽論でなければならない。と云うのは虚偽は形式論理学に於ても必ずしも非性格的ではないであろう。形式論理学に於ける真理の法則に較べて、その云わば虚偽の法則が、如何に切実であり有用であるかを人々は注意しないであろうか。虚偽そのものが真理に較べてより根柢的な動機を有っているからである、と考えられる、誤り得ることは人間的であるから、と考えられる。虚偽は真理よりも性格的であり易い性質をもっているのである。そこで形式論理学が一般に非性格的であるにも拘らず、虚偽論だけは性格的虚偽を取り扱い得たわけである。非性格的論理学は虚偽論に於て性格的なる論理学への出口を示しつつあるであろう。吾々は性格的論理学[#「性格的論理学」に傍点]を要求する権利を有つかのように思われる。
 なお、知識学に於て、認識論に於て、又科学論に於て性格の概念は果すべき多くの理論的使命を担っているかのように思われる。
 性格概念は理論一般にとって性格的な使命を有つ。
[#改段]


[#ここから大見出し]
「問題」に関する理論
     ――主に立場[#「立場」に傍点]概念の批判として必要なる分析に限る――
[#ここで大見出し終わり]


 理論[#「理論」に傍点]は一般に、或る意味に於て、常に論争と相伴う性質を有っている。特に、生活に対して日常的[#「日常的」に傍点]な理論は、殆んど協調し難く見えるまでに、正面からの反対に出会うことが屡々であろう*。茲に於ては、理論の他の場合に於てとは異って、略々一定した予知し得べき軌道に於て反対が惹き起こされるとは限らない。却って既知の・既成の[#「既成の」に傍点]・軌道から見れば、全く思いも及ばないように見える方向から、反対が突発するのが寧ろ普通である。而もかかる突発的[#「突発的」に傍点]な方向が出発する起点は必ずしも直ぐ様突き止め得られるとは限らないから、当惑した論争は反対と反駁を繰り返している内に、その道筋が乱れ、理論は効果ある進展を止め、かくて論争は絶望的に旋回し始めるであろう。そこで云わば二つの力が衝突することによって起こったこの旋回運動を簡潔に解きほごす為めには、この運動を二つの相対的な分に分解し、そうすることによって、夫々の分をして相反するこの二つの理論を代理せしめる必要があるのである。そうすることによって初めてこの二つの理論の位置関係を、一つのものの他のものに対する態度を、決定することが出来る。かくしてのみ、前に突発的と見えた方向が基く処のかの起点は、初めて突き止められるのである。理論に於けるこの分を、人々は立場[#「立場」に傍点]と呼んでいる。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
* 理論は一定の視点に従って日常的な理論とそうではない理論とに区別される。夫々のものの一例として、法律学の理論と物理学の理論を挙げることが出来るであろう。日常的理論に就いてのみ今吾々は語ろうと思う。
[#ここで字下げ終わり]
 解き難く見えた理論の葛藤を、何か恐らく二つの立場に分解することによって、能く明快に解くことが出来ると人々は考える。多くの論争は立場の相違[#「立場の相違」に傍点]に還元[#「還元」に傍点]されることによって、一先ず片づけられるように見える。というのは、云わば論争の偶然な歩哨戦は、立場の決戦によって結末をつけられることとなるのである。論争をこのようにその主力にまで転化し得るには無論、特に優れて有力な理論的能力を必要とするであろう、この転化が成功した時、吾々はこの理論的能力の鋭さを賞讃しなければならない。併し立場と立場のこの「論理的決闘」に於て、勝敗を決することが、原理的に常に可能であるかどうか、それが今の吾々の疑問である。
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