考えられる所以である。併しながら数学の論理や法則は数学体系の一部分[#「体系の一部分」に傍点]をなすのであり、そしてその数学の基礎的部分は哲学的世界観――例えば無限概念[#「無限概念」に傍点]――へ連続する(直観主義と公理主義との対立を思い起こせ)。数学の論理や法則それ自身でも、哲学的[#「哲学的」に傍点](従って又歴史的[#「従って又歴史的」に傍点])地盤から絶対的に[#「絶対的に」に傍点]独立なのではない。数学の論理や法則それ自身[#「それ自身」に傍点]にはたしかに第三階梯の階級性はない。だが、それが歴史的所産としての数学の床の中に横たわる限り、間接[#「間接」に傍点]に、この階級性を持つことが出来る。第三の階級性を数学は per se には持たないが、per accidens には有つ。mengentheoretische Antinomien に於て見出されるであろうエレア主義とヘラクレイトス主義との対立に人々は思い及ぼすが好い。per accidens に於ける第三階梯の階級性を、第三階梯の階級性と呼ぶことが便利である。
[#ここで字下げ終わり]
 自然科学に特有な二重性の故に、自然科学に現われる諸概念も亦この二重性を反映する。というのは吾々は、必ずしも自然科学的知識によって教えられない前に、又は之とは区別された、自然的諸概念を有つ。と共に又自然科学にとって媒介されて初めて知り得る限りの自然的諸概念をも無論有つ。例えば運動の概念は、存在と無との、一点での存在と他点での存在との、対立的矛盾者の総合として、概念される。この運動概念は、必ずしも自然科学によって教えられたのでもなく、又夫によって訂正されるべき筋合のものでもない。却って自然科学的認識に対して、夫は何等かの指示をさえ与え得るかも知れない位置にあるのであろう。運動概念は自然科学的知識から区別されて、歴史上にも之に先立って、弁証法的なるものとして把握される。実際之は夙にエレアのゼノンの天才によって見出された処のものである。之に反して現代物理学にとっては運動の第一の物理学的規定は、必ずしもその弁証性ではない。ここでは運動は空間座標と時間軸との比一般として、ただ計量的にのみ定式化され(物理学的にはただ計量し得るものだけが存在する)、かかる諸運動の分類・相互関係・資格の相違・等々の観点に於てのみ第一義的に規定される。物理学が教えるのは、運動が弁証法的であるか否かではなくして、それよりも第一に、例えば絶対運動であるように見えるものが如何にして相対運動として把握され得るか、という種類のことである。かくして吾々は運動概念を二重に有つであろう。一般に自然的諸概念はこのようにして二重性を有つ。自然科学的知識から区別された自然概念は、それが特別な――自然[#「自然」に傍点]科学という――条件を通過しない意味に於て、直接に歴史的[#「歴史的」に傍点]概念であるということが出来、之に反して、自然科学が与える限りの自然概念は、特に歴史の対立者を内容とする自然科学を通過するから、却って自然的[#「自然的」に傍点]と考えられる。処が又他方、後者は自然科学という一定の歴史的存在を媒介するからそれだけ歴史的[#「歴史的」に傍点]でなければならず、これに反して前者は、自然を直接に――自然科学を媒介せずして――把握するから却って自然的[#「自然的」に傍点]でなければならない。さてこの二重性が、その様々な対立にも拘らず、同一な概念――例えば運動――に於て統一を有つのであった。
 それであるから、自然科学に向って自然哲学的[#「哲学的」に傍点]要求を有つならば(そして今述べた両者の統一故にこの要素は正当である)、即ち自然科学の内容を直接に――かの認識論と呼ばれる稀釈剤を用いずに――一つの世界観へまで連絡しようとすれば、自然が例えば弁証法的存在である所以が指摘されるのは、偶然でもなく無用でもないだろう。――かくて自然科学それ自身が、その内に二つの対立者を統一しているものなのである。自然自身が弁証法的であるか否かの問題とは独立に、自然科学それ自身が特有に[#「特有に」に傍点]――歴史的科学とは異って――弁証法的なのである。
 重ねて云おう。自然は歴史の否定――対立者――である。そして歴史は又自然の否定である。自然科学は恰も相互に否定する二つの対立者を統一している。之が自然科学に特有な二重性であった。――さてこの二重性の故に、自然科学の階級性(第三の)を検出[#「検出」に傍点]することが困難[#「困難」に傍点]となり、之を信用[#「信用」に傍点]することも亦困難[#「困難」に傍点]となって来るのである。何となれば、茲には二重性のために、表面の裏には常に裏面があったのだから。
 併し、この二重性から出て来る結果を
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