的社会的活動関係とは、そのように都合好く切り離して了うことが許されないのは、遺憾ながら或は又当然ながら、事実である。この点に於てはオーギュスト・コントの歴史哲学的――コントの意味で社会学的――根本命題は、多くの形而上学者の深遠な併しありふれた評価に拘わることなく、重大な意味を持っている。蓋しコントに於ける人間の知識の三つの段階は、単に一列の歴史的推移ではなくして、正に歴史的進歩[#「進歩」に傍点]であり、単に三つの類型の序列ではなくして、正に知識の価値の歴史的清算[#「知識の価値の歴史的清算」に傍点]の過程だからである**。茲に問題となっているのは単なる歴史ではなくして歴史に於ける価値の秩序だからである。知識の歴史的社会的制約の問題を、単に或る種の知識社会学[#「知識社会学」に傍点]を以て解くことが出来ると思うことは、今ではもはや、世間見ずらしい無知の一つに数えることが出来るであろう。吾々は併し一定の根拠を示さずに漫然とそう云うのではない。
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* 「ただ精神的労作の名声[#「名声」に傍点]と通用[#「通用」に傍点]だけがみずからの社会学を持つ、或る労作の意味内容及び価値内容は社会学を持つことが出来ない」(M. Scheler, Weltanschauungslehre, Soziologie und Weltanschauungssetzung.)。
** シェーラーはその知識社会学なるものから、コントに仮託して、歴史性の原理と価値的原理とを追放する。かくて残されたものが知識の社会学[#「社会学」に傍点]である(〔M. Scheler, U:ber die positivistische Geschichtsphilosophie des Wissens〕 及び同じく Probleme einer Soziologie des Wissens を参照せよ)。
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少くともそれが特殊史でない限り、歴史的運動を段階[#「段階」に傍点]づけるものは、政治的なるもの[#「政治的なるもの」に傍点]である*。政治的なるものこそ、所謂実践性乃至物質性の優れたる概念である。実践性と物質性とは、単なる行為[#「行為」に傍点]又は感性[#「感性」に傍点]の概念ではない、又単に実験[#「実験」に傍点]とか生産[#「生産」に傍点]とかの概念に止らない、政治的なるもの――必ずしも所謂政治にぞくするものとは限らない――こそ夫である。実際今日、歴史の代表的・性格的内容は、階級[#「階級」に傍点]――この政治的なるもの――に関してのみ有効に段階づけられ得ると考えられている。そうすれば一般に、歴史性[#「歴史性」に傍点](即ち又社会性[#「社会性」に傍点])とは、直ちに[#「直ちに」に傍点]又はやがて[#「やがて」に傍点]、階級性[#「階級性」に傍点]として初めて優越に理解されるべきものだ、ということが結果する**。歴史性必ずしも常に階級性とは限らないが、現代では、歴史性はやがて[#「やがて」に傍点]階級性となるべきであり、歴史性を言うことは階級性の萌芽を培うことであり、階級性への出発をすることなのである。歴史性の概念から階級性の概念へのこの推移[#「歴史性の概念から階級性の概念へのこの推移」に傍点]に関する理解は、今日決定的と思われる。よって以下歴史性と階級性とを同じ意味に用いることが出来る。この点は大切である。
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* 例えば文学史という特殊史には、文学的時代区別(〔e'poques litte'raires〕)が必要であると説かれるであろう。之に反して一般史には政治的時代区別が与えられている。
** 歴史から独立な社会や、社会から独立な歴史はない。歴史性は常に同時に社会性である(以下歴史的とは社会的に同じ)。
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さて科学の歴史性[#「科学の歴史性」に傍点]――階級性[#「階級性」に傍点]――は決して単純ではない。様々の階梯を之に区別する必要が現実上あるであろう。何故なら今日階級性の概念が様々に異った意味で用いられているのが事実であり、そしてこの様々に異った意味を区別しておかないために、色々な困難や不充分さに行き当るのを吾々は経験しているから。
科学――学問――が一つの歴史的――社会的――所産であることは云うまでもない。科学のもつ理論の形式は兎に角として、少くともその内容は、であるから歴史的に制約されている。たとい科学の所謂アプリオリなるものが絶対不変であろうとも、之に基く理論内容は、歴史的に変化[#「変化」に傍点]することを免れない。理論Aの内容α1[#「1」は下付き小文字]が、内容α2[#「2」は下付き小文字]に変化するこ
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