されるであろう。歴史的遊離性はこのような論理的虚偽形態として反映するのである。――処がこのような虚偽形態は必ずしも虚偽として自覚されるとは限らない、多くの場合之は無意識的[#「無意識的」に傍点]に犯されるであろう。実際この虚偽形態は、却って最も尤もらしく[#「尤もらしく」に傍点]見え、正常・妥当な真理としてさえ信用を博すのが常である。この虚偽が自らを虚偽として自覚するためには更により強度の真理意識――何となればこの虚偽でもとに角一旦真理として意識され得るのだから――を必要とする。行きづまった理論の代りに、前途への展望と展開とを有った理論、問題の無限の系列が次ぎ次ぎの項を必然ならしめるような問題を捉えている理論、之に於てこそそのような強力な真理意識が横たわる。このような理論にして初めて、かの無力な理論をしてその虚偽を暴露せしめ得るような論理的真理を有つ。之は理論の展開性[#「展開性」に傍点]としての真理形態である。さてこのような真理形態を有つ理論の出発点となる問題は、歴史社会的存在の必然性[#「必然性」に傍点]に於て選択されたものに外ならない*。故に歴史的必然性が論理的真理として反映するのである。かくて問題選択に於ける歴史的遊離性と必然性とは、夫々、理論の停滞性[#「停滞性」に傍点]と展開性[#「展開性」に傍点]として、一定の論理形態を反映したのを見るであろう。――併し場合をもっと具体的に進めよう。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
* 歴史に於てはその遊離性と雖も或る意味の必然性をもつ、今云う必然性は之とは異って遊離性に対する地盤性[#「地盤性」に傍点]を指す。――之は社会に於て例えば必要性[#「必要性」に傍点]となって現われる。
[#ここで字下げ終わり]
歴史的運動の必然性に於てあるものは、台頭的契機[#「台頭的契機」に傍点]として現われ、その遊離性に於てあるものは没落的契機[#「没落的契機」に傍点]として現われる。蓋し歴史的運動はその必然性によって運動するのであるが、遊離性は必然性からの脱落としての必然性を有つのであったから、遊離性の必然性は自己矛盾する必然性として、歴史的必然性によって清算・淘汰されて行くべき運命をもつ。遊離性に於てあるものが、必然性に於てあるものの台頭によって、没落せしめられることが、とりも直さず歴史的運動の必然性なのである(但しここに契機と名づけられた二つのものは、もはや決して無限小の微分的な二つの分野ではない、そうでなくして有限的に捉えることの出来る二つの分野として存在[#「存在」に傍点]する。――例えば歴史的役割を担った階級として)。それであるから没落的契機は存在に於ける矛盾[#「存在に於ける矛盾」に傍点]――まだ論理的[#「論理的」に傍点]矛盾ではないことを注意せよ――を含み、之に反して台頭的契機はこの矛盾を止揚し解き披くことを歴史的に必然にされている。さてこの存在的矛盾とその止揚とが夫々、論理的矛盾とその止揚として、論理的虚偽形態と論理的真理形態とになって、反映することを今見よう。
真理は常に代表的真理であったことを茲に思い起こす必要がある。というのは真理内容は常に部分的であって而も真理という全般を代表する資格を有つのであった。真理は云わば abschatten する、常に或る一面のみが照され透明となる。そこで今まで姿を見せなかった真理の新しい一面が、理論の歴史的推移に応じて、歴史社会的運動の一部にぞくするものとして、展開して来るのが事実である。従来日程に上らなかった真理内容が、一定の歴史的段階に当って、必然的に、初めて注目され・重大視され・そして問題化[#「問題化」に傍点]されて来るであろう。之に反して今まで注目の焦点であった諸真理内容は、もはや片づいたものとして、云い出でる必要のないものとして、即ち取り立てて主張して見ても何等理論上の効果を有たなくなったものとして、真理の陰影の側に回される。強いてこの真理内容を固執し、従って新しく問題化されて来た内容に対して代表者としての位置を与えることを拒む時――この動機も歴史的に必然でないのではない――、陰影に回された真理はやがて積極的に虚偽の役割を以て登場して来る、之は歴史的運動に起こる事実上の推移の結果である。――処で今は、歴史的因果に於けるこの結果[#「結果」に傍点]が、実は同時に、論理的発展に於ける帰結[#「帰結」に傍点]となって反映するということが大事である。という意味は、歴史的推移以前の理論が、推移以後の理論へ、単に推移したのではなくして、後者によって批判[#「批判」に傍点]される、ということである。そしてこの場合批判は無論理論的[#「理論的」に傍点]であるのである。前者は論理的――存在的ではない――矛盾として、後者はその止揚
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