として、相会するという関係が必ず横たわっていると云うのである。尤も前者自身の立場に立って見られる時、原則としては、何の矛盾を含むとも考えられないであろう、どのような理論も夫々の立場に於ては論理的に整合であるべきであり又そうあることが出来る。併し前者の立場に、新しく重大視されて来た問題[#「問題」に傍点]を付加して、之を一体として統一しようとすれば、前者が事物を全面的[#「全面的」に傍点]に把握する代りに一面的[#「一面的」に傍点]に、徹底的[#「徹底的」に傍点]・根柢的[#「根柢的」に傍点]に追跡する代りに不徹底・皮相に取り扱っていたことが顕わとなって来るのであり、このような前者の弱点が、後者の拡張された立場から見ればとりも直さず矛盾の形式を踏んで来るのである。後者の立場から前者の立場の矛盾を指摘しようとすれば、この矛盾は前者だけの立場には無かったのだから、前者がこの指摘を単に自身を危く[#「危く」に傍点]するものとしてしか評価出来ないのは自然である。前者から見れば後者は単なる前者の否定[#「否定」に傍点]、単なる対立[#「対立」に傍点]でしかない。併し後者から見れば後者は単なる否定ではなくして止揚――否定の否定――であり、単なる対立ではなくして正にその対立自身の現実的な否定であるのである。かかる現実的な否定によって後者は、前者への対立者としての自己をも止揚するのである。この関係をもし前者から見れば、寧ろ後者の否定[#「後者の否定」に傍点]こそ、例えば後者程極端[#「極端」に傍点]に走らないことこそ、自己と後者との中庸[#「中庸」に傍点]こそ、所謂否定の否定と考えられるかも知れない(人々の云う否定の否定――総合――とは多くこの類である)。今は後者から見るから、後者の否定ではなくして後者自身が、前者の真の否定の否定であるのである。このような否定の否定が初めて批判的[#「批判的」に傍点]であることが出来る、批判者はこの意味に於てのみ被批判者を止揚するのが事実である。単なる内在的批判[#「内在的批判」に傍点]――夫は被批判者の立場からする――はそれ故元来批判の名には値いしない、批判とは常に超越的批判でしかない。そして大事なことは、この超越的批判が被批判者にとっては超越的に見え[#「見え」に傍点]るに拘らず、批判者にとっては被批判者に対して[#「被批判者に対して」に傍点]やはり内在的である[#「ある」に傍点]、ということである。それ故論理に於ては超越的批判が内在的批判に歴史上先立つ。内在的批判によって矛盾が発見されたが故に超越的批判が惹き起されたのではなく、予め超越的批判をなしたからそれが内在的批判となり得たのである。論理はその論理的矛盾を動機・動力として之を止揚するのではなくして、予め止揚の現実情に立つから初めて論理的矛盾を発見[#「発見」に傍点]する動機を得るのである。この動力はそれ故もはや論理にあるのではない、論理は自己自身に具った論理的矛盾を動力として運動するのではない。歴史社会的運動が先ず先立ち、この運動によって止揚者へ新しい問題[#「問題」に傍点]が提出され、この新しい問題を解き得ないものとして、初めて矛盾者が矛盾者として発見されるのである。論理的運動の動力は従って論理自身の内にではなくして歴史的運動の内に横たわる。論理的矛盾[#「論理的矛盾」に傍点]の動機は歴史社会的運動に於ける存在的矛盾[#「存在的矛盾」に傍点]の外ではない。論理的運動は歴史的運動の自己表現・反映である、かくして理論の歴史的推移は、論理的な批判[#「批判」に傍点]として理論内容へ反映する。没落的契機に於ける理論は、論理的矛盾を含む被批判性[#「被批判性」に傍点]――矛盾性[#「矛盾性」に傍点]――として、台頭的契機に於ける夫は之に反して、この矛盾を止揚する批判性[#「批判性」に傍点]として、夫々歴史的段階を一定の論理形態として反映する。蓋し批判とは歴史的運動に於ける二つの契機が相会する処の危機[#「危機」に傍点]の、論理的反映であるであろう。――理論のかの停滞性と展開性とは、今やかかるものとして現われるのである。それ故又問題選択[#「問題選択」に傍点]の可否は、理論のこのような一定の真偽形態として見出されるべき筈である。
 尤も又、被批判者の位置にあると考えられたもの、即ち被止揚者は、その被批判性を自覚しないのを寧ろ通則とするから、批判者に対して逆批判をなし得るように空想するのが常である。併し歴史的運動に逆行するかかる逆批判は元来批判ではなかった。そして実際、逆批判者は原理的に、批判者がもつ歴史的に必然な問題[#「問題」に傍点]に対して無知であることを注意しよう*。
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* 批判に当っては批判するものの批判者とし
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