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 此処まで用意して来て初めて吾々の最初の課題が解かれる。問題選択に於ける歴史的必然性乃至遊離性が、理論内容に於ける論理的真理性乃至虚偽性として、反映し得るか、又如何に反映するか、という課題の解答を。
 歴史的運動が就中政治的であったから、問題の選択は政治的であると云い直そう。さて問題の変化は政治的であり、理論の変化は論理的である、之は吾々が初めから認めてかかった処である。そこでこの二つの変化は夫々独立の動力に基いた独立の変化であるように見える。問題の選択は政治的であって、それ故、論理的ではあり得ないように見える。例えば人々は云うであろう。理論は一定の問題を予想して之から出発して論理的に組織立てられるに違いはない、一旦一定の問題を許せば後の事柄は論理が独りで決定出来るであろう、併し如何なる問題を選ぶかはもはや論理の与り知ったことではあり得ない、それは要するに人格[#「人格」に傍点]とか体験[#「体験」に傍点]とか――いやな言葉であるが政治と云っても好い――が決定するのである、と。問題の選択はかくて政治という超論理的な論理外の勢力に帰せられることになるであろう。――処が恰も論理形態が政治的に決定されることこそ吾々の得た結論ではなかったか。そうすれば茲で政治的に[#「政治的に」に傍点]問題が選択されるとは、それが論理に於て、論理内の勢力によって、論理的に[#「論理的に」に傍点]選択されるということに外ならない。政治的な問題選択も政治的性格をもった論理の勢力内にぞくする。如何なる問題を選ぶかは全く論理的な問題でなければならないのである。かくて政治的問題選択は論理的な夫として反映し得、又反映しなければならない、ことが結果する。故に問題選択に於ける歴史的必然性乃至遊離性は、理論の論理的真理形態乃至虚偽形態として反映し得なければならない。――之れが第一段の解答である。
 如何に反映するか。それを見れば第一段の解答は実地に検証されるわけである。之が第二段の解答となる。――但し反映は無論形態的[#「形態的」に傍点]にである。

 第二段の解答に来る。
 歴史は代表的な生成的存在であろう。歴史は変化し展開することをその第一規定とする。それにも拘らず歴史は、伝統として・制度として・又秩序として、自らを固定する性質を有つ。固定した限りのものは固定する原理を自らの内に有っているから、変化を原理とする限りの歴史からは遊離することが出来る。歴史は自らを自己の地盤から遊離せしめることが出来る。之が歴史社会的存在の歴史的運動に於ける遊離性[#「遊離性」に傍点]と呼ばれたものなのである。さて理論も一つの歴史社会的存在として、その歴史的運動に於て自らを遊離せしめることが出来る。この遊離性が或る種の論理的虚偽[#「論理的虚偽」に傍点]として事実反映して来るであろう。歴史的遊離性がすぐ様論理的虚偽ではない、それは単に遊離性にしか過ぎないであろう、併しそれが理論に反映することによって、改めて虚偽として自己を表現すると云うのである。それはこうである。歴史社会的地盤を遊離した諸理論は、みずから掲げた一応の問題をしか解くことが出来ない。なる程どのような理論にあっても、選択された問題は、それが提出された問題提出の仕方に沿うて、必ず一応は解かれることが出来る性質を有っている。遊離した理論は併し、ただみずから選択した一通りの問題をしか解き得ないのであって、進んで必然的に他の諸問題を解くことが出来ない、と云うのである。元来、問題らしい問題は、それが一旦解かれることによって必ず次の問題を解くべく提出することが出来る性質を有っているのである、真の問題は諸問題の無限の系列の一項に相当しているものなのである。処が今の場合、このような次ぎ次ぎの必然的問題がもはや提出され得ず況して解き得ない。このような理論は、相不変おきまり[#「おきまり」に傍点]の問題を解いて了えば、もはや解くべき問題を有たなくなる、初めから何かの展望があってこの問題を選択せねばならなかったのではなくて、云わば系外へ遊離した物体のもつ惰性故に、漫然とこの問題が取り上げられたに過ぎなかったからである。理論は行きづまり、問題は欠乏する。強いて問題を見出そうとすればそれ故、そこにあるものは捏ね回しでしかあり得ない。捏ね回した揚句に出て来る問題は当然、結局元の相不変の問題であり、その解決の結果も結局初めの結果と大同小異であるであろう。解決の結着は初めから判っている、解決とは話を予定の落着に落す落ち[#「落ち」に傍点]でしかない。もし世間的に云って所謂八百長が一つの罪悪であり、落語が滑稽に感じられるとすれば、理論に於てもそれは一種の俗悪なる論理的虚偽でなくてはならない。之は理論の停滞性[#「停滞性」に傍点]なる虚偽形態に統一
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