A想させるかも知れない。併しそこでは少くとも歴史の現実性[#「現実性」に傍点]は、そのものとしては抽象し去られている。吾々にとって注意すべきは、そこで取り扱われるものが社会典型[#「典型」に傍点](types sociaux)であって、社会形態[#「形態」に傍点]ではないという点である。吾々は前に形態を典型から区別した(〔E. Durkheim, Les re`gles de la me'thode sociologique,〕 p. 143 参照)。
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吾々は、一般に、存在性の代表的なるものを、現実[#「現実」に傍点]性に於て見出す。現実こそ存在の優越なる本質性であり原理であると考えられる*。歴史はそして恰もそのような現実性の保持者に外ならない。現実性は歴史に於て特に現在性[#「現在性」に傍点]となって現われるものである**。歴史の現段階としての現代[#「歴史の現段階としての現代」に傍点]がそれである。歴史的現段階は併しながら、例えば一定量として停止している絶対単位や又はエレア的一点ではない。それは前段階と後段階とを媒介する契機としての微分点に、生産的な運動点に、而も現実的な延長を有つ線分に、一応譬えられて好い性質を有っている。歴史的現段階の現実性はただ運動の契機[#「契機」に傍点]によってのみ――その継続時間とは関係なく――保証され、而も有限な単位を与えられることは注意されるべきである。処が歴史のこの運動は人々の行動の関門を通過して初めて実現[#「実現」に傍点]されるであろう。現実とは、もしそれが実現を俟つ概念でなければ佯《いつわ》りである。かくて歴史の現実性――歴史的現段階性――は或る意味に於ける実践[#「実践」に傍点]概念を俟つのでなければ誤りであるであろう。歴史的現段階は或る意味に於ける――その意味は次を見よ――実践から切り離されることが出来ない。
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* 社会的存在が何故存在の代表者であるかは、茲に明らかである――前を見よ。蓋し社会的存在の内容が――夫は歴史であった――最も現実的[#「現実的」に傍点]だからである。なお存在の最も優越なる存在性を現実性(Wirklichkeit)から区別されたる意味で、例えば実在性[#「実在性」に傍点](〔Realita:t〕)であると考えることは、原理としての現実性[#「原理としての現実性」に傍点]を理解しないことに由来するであろう。
** 現在性は要するに優れて限定された質料性[#「質料性」に傍点]である。それ故歴史の現実性は他の関係に於て物質性[#「物質性」に傍点]となって現われることが出来る。
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往々にして過度に尊重され又は過度に軽視されるこの実践という概念を、或いは単に倫理的合言葉として、或いは単に実用主義的道具への交渉として、或いは単に利用厚生の仕方として、思い浮べてはならない。実際人々は単に意志的であることを、又は単に主知的でないことをさえ、軽々しく実践的と考えはしないであろうか。吾々の実践概念はそうではなくして歴史的運動の実現[#「歴史的運動の実現」に傍点]――歴史的変革――であった。この意味に於ける実践の最も優越なる形態は、政治[#「政治」に傍点]であるであろう(この言葉は現在充分の広さに於て行使されている)。何となれば、任意の事物に関する個人的行動が、苟くもその事物の歴史的変革に関係し得る時、それは必ず政治的意味を有つのであるから。――それ故歴史的現段階は今や、就中政治的[#「政治的」に傍点]なるものとして理解されるべきである。
前に帰ろう。論理形態を決定するものは社会であり、更にこの社会の形態を決定するものが歴史の現実性であった。そしてこの現実性が就中政治的であったのである。従って論理形態は政治的に決定される[#「論理形態は政治的に決定される」に傍点]わけである*。性格的論理――吾々が今論理と呼ぶのは常に之である(前を見よ)――は政治的性格[#「政治的性格」に傍点]を有つ。蓋し性格的論理の性格という言葉は、結局、就中この政治性を云い現わすのであった。茲では論理と政治とが一致する、理論[#「理論」に傍点]と実践[#「実践」に傍点]とが統一を得る所以である**。
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* 政治形態[#「政治形態」に傍点]が更に何によって決定[#「決定」に傍点]されるかは他の場合の問題としよう。――吾々は唯物史観[#「唯物史観」に傍点]を仮定して好い。
** 吾々は praktische Theorie, theoretische Praxis 等々の言葉をもつ(例えばディーツゲン前掲書を見よ)。
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[#3字下げ]三[#「三」は中
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