オ得ると云うのである、ただその場合意識が予め論理形態を決定していることを条件とするまでである。このようにして社会は論理を形態的に決定[#「形態的に決定」に傍点]し得るものである*。
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* 或る意味に於ける[#「或る意味に於ける」に傍点]論理形態が社会によって決定されることは、一例としてデュルケムが実証的に教える処である。と云うのは彼によれば論理の範疇[#「範疇」に傍点]は社会的に――そして夫は信仰・信念を媒介として――決定されるのである。併しこのような意味に於ける論理形態は、まだ必ずしも真理と虚偽との関係[#「真理と虚偽との関係」に傍点]としての、吾々の所謂論理形態ではない――前を見よ(〔E. Durkheim, Les formes e'le'mentaires de la vie religieuse. Conclusion.〕 参照)。
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所謂妥当[#「妥当」に傍点]の世界にぞくすると考えられる論理形態は意識[#「意識」に傍点]にぞくする情意・信念によって決定される、そしてこの情意形態・信念形態は又社会[#「社会」に傍点]によって決定される。茲で二つのことが与えられていることを見なければならない。第一の点は形態的決定の系列が妥当―意識―社会の順序であって、その順序の逆は不可能だということにある。何となれば形態とは形式的原理ではなくして質料的原理から惹き出されるものであったが、質料的原理を担うものは常にこの系列に於て順次に後にぞくする項でなければならないから。形態的決定の方向はそれ故一方向きであって可逆的ではあり得ない。従って茲に、前のものと後のものとの相互作用[#「相互作用」に傍点]とか相関関係[#「相関関係」に傍点]とかを今持ち出すことは無意味であるであろう。夫を説くことが凡ゆる意味に於て不可能だと云うのではない、そのような決定関係を以てしては形態的決定の理解へ少しの貢献も出来ないと云うのである。――吾々は論理の現実的・内容的把握を志していたのであり、この志を実現する唯一の通路が形態的決定の関係であったのである。
第二の点は、妥当―意識―社会の順序に於て、前の存在が後の存在に依存[#「依存」に傍点]する――但し形態的決定に於て――、ということである。そう云う時、恐らく人々は、次のような言葉を以て反対し得ると想像するに違いない、もし論理形態が終局的に社会的存在に依存するならば、一体論理の独立性[#「独立性」に傍点]――自律――は何処へ行ったのであるか、もし論理の独立性が否定されるならば、この文章自身すら独立な真理性を有てなくなるではないか、それは何か社会的存在に他律的に順応する外はなくなるではないか、と。併しその所謂独立性とは何か。夫は理念[#「理念」に傍点]の独立性のことであろう。理念の独立性、夫は理念が何等か理念以外のものから無関係であり得ることの外にはないであろう、必ず関係しなければならないならば独立ではなかろうから。そこで真理という理念がそれ自身以外のものへ働きかけ[#「働きかけ」に傍点]なくても済ませること、之が論理の所謂独立性――自律――であるのか。併しそれは吾々自身が初めから主張していたことの外ではない、曰く、理念は現実に対して無力[#「無力」に傍点]であると。吾々は少くとも社会的存在が論理の理念を造り出す[#「造り出す」に傍点]などとは云わなかった。凡そこのような天地創造説は吾々の知ったことではない。その限り論理は確かに大丈夫独立性を有っていないのではない。論理の自律への関心はこの程度で満足させるわけには行かないであろうか。
吾々はもっと実になる本筋へ帰ろう。と云うのは、論理は之以上の[#「之以上の」に傍点]独立性を有つ必要がないと云うのである。併しその代りに今度は、論理は一切の存在との連帯性[#「連帯性」に傍点]を有たなければならない、今は何よりも之が大事である。元来論理の使命は他の一切の存在を解明することにあったのではないであろうか。この使命をどう果すかを決定するのを忘れた論理は、それが自律的・独立的であろうと無かろうと、少くとも吾々の理論の連鎖の上では無用である。――さて今此等一切の存在を社会的存在として集約して見よう。そうすれば論理が終局的に社会的存在に依存するということに何の不思議があるであろうか。そして今は形態的決定の場合であったから、この依存関係が不可逆的でなければならなかった(第一の点を見よ)。社会的存在は論理のこの連帯性の故に論理形態を決定し得たのである。之が第二の点である。
実際、論理(即ち又真理)とは、例えば論理的整合というような形式性にあるのではなくして存在の内容的連関の内に横たわる処の関係であるであろう。之が
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