ろう。事実は、論理の現実内容こそ感情・意欲の内に横たわる。論理の動機・論理構成の動力はここからして発生し、ここからのみ取り出される。念のためにもう一遍云うならば、情意や信念は論理の形式に当て嵌まって初めて論理的内容となるのではない、そうではなくしてそれ自身に内在する原理――質料的[#「質料的」に傍点]原理――によって、場合に応じて論理的内容となるのである。それ故かかる情意乃至信念は、実際もはや単なる夫としてではなくして却って正に論理として意識されるであろう。それであればこそ人々は、過程を逆にして、之を論理の形式[#「形式」に傍点]に当て嵌まったものとして取り扱おうともするのである。青と赤とが夫々の知覚に内在する原理に基いて区別されるのであるにも拘らず、この区別が判断によって与えられるとも考えられるように。
論理形態を決定するもの、論理に動機を与えそれの動力となるもの、それはもはや単なる論理ではなくして情意乃至信念である。この云わば人間学的段階[#「人間学的段階」に傍点]に於ける論理は、吾々が是非通過しなければならない段階なのである。
論理形態を決定するものは情意・信念であった。併し茲でも亦情意・信念を単なる夫としてではなくして、情意形態[#「情意形態」に傍点]・信念形態[#「信念形態」に傍点]として理解することが必要である。現実的内容規定の把握を媒介とせずに情意乃至信念の一般性を把握してはならない。この形態を決定するものは情意乃至信念という――一般的・形式的な――概念ではあり得ない。恰も真理の理念が真理形態を決定し得なかったように。何が情意形態・信念形態を決定するか。論理的形態を決定したものが情意・信念であったが、今度は何か。
論理は妥当[#「妥当」に傍点]の世界にぞくすると考えられている。之に対して情意・信念は意識[#「意識」に傍点]にぞくする。情意・信念は、一般に意識なるものの、特殊の種類――典型――であるであろう。情意・信念を単にそのものとして形式的に規定するならば、それは意識――但し無論特殊の種類の意識――である。又個々の情意内容・信念内容も、かかる意識の形式の内に横たわる限りの、個々の意識内容に外ならない。吾々の求める形態はそれ故、意識[#「意識」に傍点]によっては決定されないということが結果する。――処が意識はその優越なる意味に於て、本来個人[#「個人」に傍点]の意識でしかないことを注意する必要がある。もし超個人的意識というような概念が愛用されるとしても、之を個人的意識へどう関係づけるかを同時に説明しない限り、この概念は地盤がなく理論上の効果を有つことを許されない。個人的意識をただ超越したというだけの超個人的意識の概念は、ただ弁疏的な役割しか果さないであろう。又社会が意識を有つというような云い表わし方は比喩か類推に外ならない。意識概念は、自我概念がそうあるように、ただ個人概念からしか動機されない。人々はこの概念を行使する時、それであるから、常にこの個人概念からの動機に忠実であるべきことを忘れてはならない。この概念をどのように非個人的なるものとして行使しようともそれは人々の自由であるが、それが元来の動機から云って個人的であったことの意識が曖昧であるならば、そこではもはや人々は意識概念使用の権限を踏み超えにかかっているのである。この単純な事実は散漫にではなく正確にそして一般的に掴まれねばならぬ。さて意識概念は情意形態・信念形態を決定することは出来なかった。そして意識概念は今、常に個人的意識の概念でなければならなかった。それ故、吾々の求めている形態を決定するものは、個人[#「個人」に傍点]に関わる概念ではあり得ない。それは社会的存在[#「社会的存在」に傍点]である外ない。一般に、意識形態を決定するものは社会であるであろう。今はその特殊の場合として、情意形態・信念形態に就いて、之を決定するものが社会である、ということとなる。
社会が情意乃至信念の――一般に意識の――形態を決定する。前に、情意乃至信念が論理形態を決定した。故に社会は論理形態を決定し得る筈である。併し単に、社会が意識形態を決定しそして意識が論理形態を決定するから、従ってただ間接に[#「間接に」に傍点]社会が論理形態を決定することになる、と云うのではない。もしそうならばこの二重の形態決定関係によって最初の形態は多少ともその形を崩し変装するであろうから、もはや充分な意味に於て社会が論理形態[#「形態」に傍点]を決定するとは云われないかも知れない。今はそれだけではなくして、この二重の形態決定関係を条件として、それの上で、社会が直接に[#「直接に」に傍点]、論理形態を決定し得るというのである。社会は意識形態を決定するばかりではなく、みずから論理形態をも決定
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