ノ初めて、人々は予想された帰結を変えることを余儀なくされるのであり、そこで別に新しい帰結を予想して再び今のことを繰り返すのである。この条件は別に何も独断的な手続きに限られるのではない、何となればこのような手続きを経なければ、吾々は真理へ現実に到達出来ないのだからである。或る人々は、予め帰結を先取することをば、虚偽以外の何ものをも産まない処の条件と考えるかも知れない。もし人が飽くまで最初に予想された帰結に執着するならば恐らくそうであろう。併し彼が理論的である限り、予期の帰結がどうしても惹き出せない時、之を思い止まるのが健全な場合であろう。そして之は何も、他の帰結を先取することまでをも断念したのではない。真理はただ適切な帰結の先取によってのみ開拓される。人々は洞察・直観・発見の才・等々の言葉を以て、この先見の明を讃美するのを常とさえしはしないか。諸々の推論にその性格を与え、その形態を決定するものはかくて又一定の動機であるのである。――次にこの推論は更に、理論[#「理論」に傍点]の微分に相等するものと考えられる。諸々の理論を指導し、之にその性格を刻印し、一定の理論形態を決定するものは矢張り又理論の一定の動機でなければならない。この動機の活動が活発であればある程、理論は明快となり、その目的を正確に果し、強力な説得力を持って来る。この状態は多少の語弊を忍ぶならば修辞的[#「修辞的」に傍点]と呼ばれてよいであろう。理論に於ては常に結論が先取される。もしそうでなければ分析――理論の代表的な手続きが之――のテロスが失われ、或る種の科学に於て見受けられるように、際限なき区別の羅列が理論の内容となって了うに違いない。――さて、そうであるから一般に、性格的論理形態を決定するものは、論理の動機[#「論理の動機」に傍点]である。
 尤も論理のこの動機によって、単に性格的真理ばかりではなく、同時に性格的虚偽も亦動機づけられるであろう。そうすればこの動機は真偽の区別に対して無記な規定を動機するに過ぎないかのようである。併し元来、虚偽の可能性のない処には現実的な真理はない。真理を真理たらしめるものがとりも直さず虚偽をして虚偽たらしめる処のものであった――前を見よ。そして夫が恰も論理のこの動機に外ならない。――さて論理の動機は情意[#「情意」に傍点]又は信念[#「信念」に傍点]に基く*。
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* 論理形態が情意[#「情意」に傍点]によって決定される事を特に指摘したものはリボーの労作である(T. Ribot, La logique des sentiments. 特に p. 65 以下参照)。又論理の内容が信念[#「信念」に傍点]であり、真理の性格が信念の強度にあることを強調したものはタルドであった(彼に於ては論理[#「論理」に傍点]は目的論[#「目的論」に傍点]と表裏関係を有つ、論理に於て信念であるものは目的論に於ては欲望[#「欲望」に傍点]である)(G. Tarde, La logique sociale, chap. I 参照)。
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 情意乃至信念がそれ自身に於て全く没論理的であるという想像は、一つの形式主義的迷信である。論理を純論理的なるものとしてしか理解しなければ、情意乃至信念は同語反覆的に没論理的であらざるを得ないであろう。処が吾々によれば恰も論理はそのように形式主義的に理解されてはならないのであった。現に人々は判断を一つの信念に帰しているではないか。而も之は無論のこと、判断が論理的でないことを意味するのではなくして、却って信念が信念でありながら同時にそのまま論理内容を構成する動力であることを意味しているであろう。論理内容はこの信念の内に横たわる。信念でありながら――信念でなくなるのでも信念以外の動力に従うのでもない――論理的であることが出来るのである。処でそうであるならば、信念の不可欠の条件と云うことが出来る情意内容も、何故元来そのまま論理的である場合があってはならないか。情意がそれ自身の動力に従って或る時は論理的となり又或る時は没論理的となると考えることが何故不思議なことなのか。もし論理的内容を抽象した情意こそ真の情意であると云うならば、茲にも形式主義の虚偽公式が当て嵌まるというまでであろう。分析は勝手であるがそれをどう総合するかが常に問題である。感情や意欲は、所謂論理的思惟というような純論理的なるものの形式に、偶然外から混入する処の夫から独立な素材ではない。もしそうならばこの混入によって原理的に常に虚偽が惹き起こされる外はない。すると例えば情意内容を有つ世界観というようなものは、例外なく虚偽である外はない。苟くも世界観をもつということが非論理的であり従って反論理的であることとなるで
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