」性[#「遊離性」に傍点]が、理論内容に於ける論理的真理性[#「論理的真理性」に傍点](従って乃至)虚偽性[#「虚偽性」に傍点]として、反映し得るか否か。するならばどう反映するか。――吾々が解くべき課題は之である。

 この課題を解くために、予め真理[#「真理」に傍点]概念を正当に洗練してかかる必要がある。真理の概念は第一に一種の全体[#「全体」に傍点]の概念として理解され得るであろう。事物の一面的・半面的理解は少くとも真理であることが出来ず[#「出来ず」は底本では「出来す」]、ただ全面的理解だけが真理を有つと考えられる。それ故例えばヘーゲルに於ては真理は終局的な総合と統一とを云い表わす言葉であった。併し吾々が今問う処は――何処でも何に就いてもそうであるが――、単に真理[#「真理」に傍点]とは何かではなくして、云わば何が[#「何が」に傍点]真理か、である。如何なる規定に於て把握されたものが真理の内容となるか、如何にして把捉・獲得される限り真理が真理となるか、である。問われるものは真理の現実的[#「現実的」に傍点]規定であって、その観念的[#「観念的」に傍点]規定ではない。真理が全体性であるならば、吾々は、この全体性を如何にして――真理として――現実に把握するか、を尋ねる。処が全体性は現実的に云ってただ部分[#「部分」に傍点]的にしか把握出来ない。原理的に云って現実上(現実[#「現実」に傍点]とは一つの原理[#「原理」に傍点]であることを注意せよ)そうなのである。無論それが真理――全体――としてである限り、人々は之を部分としてではなく正に全体として把握するには違いないが、その把握の仕方――それが現実――が部分的なのである。従って把握されたる又は把握され得る限りの現実の真理は、部分的であると云わないわけには行かない。それにも拘らずこの部分的真理が全体性を有たねばならないのである。この関係を云い現わすのに吾々は、或る種の無責任なる理想主義風の口吻を避けて、代表[#「代表」に傍点]の概念を用いるのが適切であるであろう。把握されたる真理部分は真理全体――真理の理念[#「真理の理念」に傍点]・真理自体・絶対真理・其他何でも好い――を代表する。この意味に於て真理は常に代表[#「代表」に傍点]的である。
 一般に、全体と部分との関係に於ては、必ず全体が部分を優越すると考えられる。それであればこそ真理が、部分ではなくして全体でなければならぬと考えられた。処が、今部分が全体を代表[#「代表」に傍点]すると云う時、却って部分が全体を或る意味に於て優越することが意識される。それ故代表の概念は実は、全体―部分の関係ではもはや充分正当には理解出来ない。そこで之を形式[#「形式」に傍点]―内容[#「内容」に傍点]の関係に於て見よう。
 全般としての真理概念――真理の理念[#「真理の理念」に傍点]――は部分としての夫を優越した。全般真理は部分真理を支配していなければならない、そしてそのためには、夫は後者から独立して自身に安らうことが出来なければならない。真理の理念は、個々の部分真理をして凡そ真理たらしめるものであり従ってその限り部分真理を離れては意味がないが、それにも拘らず部分真理から独立して自己の安定を保っていると考えられる。さてそこで真理の理念は部分真理をその内容とする形式[#「形式」に傍点]と考えられるであろう。処がこの形式は、今云ったことによって、たとい内容に即したものとは云え、この内容からは独立に自足したものと考えられる。それ故真理の理念を独立な自律性をもつものとして、その自己安定の状態に於て、捉えようとすれば、夫は内容から独立に、形式的に[#「形式的に」に傍点]、無内容[#「無内容」に傍点]なるものとして、定着されなければならない。それは真理一般であって、特に真理某でなければならない[#「特に真理某でなければならない」に傍点]のではない。茲に現実内容から来る規定は原理的に作用を停止され、それに形式的原理――理念の独立――が代わる。真理の理念[#「理念」に傍点]はかくの如く無内容と考えられるであろう。今実際にこの無内容と考えられた理念真理が、現実を取り扱う理論に於て、その原理となったと想像せよ。理念が無内容であったのだから、現実内容は容易に理念の内容として取り入れられるかのようである。処が実は、理念が無内容であったからこそ却って、現実内容はただその作用を停止されることによってのみ、ただ無内容者の内容という資格に於てのみ、即ちただ内容そのものの資格でない時に限って、内容的にではなくしてただ形式的に、その内容となることが出来るに過ぎない。現実内容は形式的原理の単なる――形式的なる――素材となり、結局その内容性・現実性としての原理を形式の原理によって否定
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