狽アこで大見出し終わり]
[#ここで字下げ終わり]
[#3字下げ]一[#「一」は中見出し]
現実に存在する理論は常に誤謬[#「誤謬」に傍点]を含む可能性を持っている。従って誤謬の有無・程度・種類に応じて、諸理論は初めて夫々様々な形状に分裂し、相互に食い違いを産むのである、と或る人々は考える。もはや誤謬を含まない理想的理論としてはそれ故、一定の事物に関する一切の諸理論は一つの同一の理論に一致しなければならない(理論の唯一性[#「唯一性」に傍点])、とその人々は考える。例えば存在[#「存在」に傍点]という一定事物に就いての諸理論は、それが理想的であるならば凡て、同一無二の帰結に到着すべきものと考えられる。処が実は、存在の概念の下に、或いは自我・意識等々が、或いは世界・歴史的社会等々が、理解される。存在という同一に見えた事物も、或いは自我の・或いは世界の問題[#「問題」に傍点]として提出[#「提出」に傍点]される時、問題提出に於ては異った夫々の問題となる外はない。尤も一定の学問に対して、もし一つの最も普遍的な問題というようなものがあるならば、少くともそのような問題こそは唯一無二[#「唯一無二」に傍点]でなければならないように見えるかも知れない。併しかかる問題は無論、ただ形式的[#「形式的」に傍点]にしか存在しない。吾々がそのような問題を、実質的に――形式的にではなく――即ち現実的に、把握[#「把握」に傍点]しようとすれば、忽ちそこには把握の仕方の相違が這入って来る。形式上は同一と考えられた問題――前の例ならば存在――も現実に於ては夫々異った特定[#「特定」に傍点]の問題として把握され、そして提出されるのである。現実への避くべからざる交渉を予め用意した限りの現実的概念――之を観念的概念から区別せよ――としては、問題とは常にこのような夫々特定の問題提出[#「特定の問題提出」に傍点]の外ではない。それ故このような意味に於て、学問にとって、一定の書物とか唯一無二の問題とかいうものが存在するとは限らない。従ってそこには理論の唯一性があるとは限らない。理論が同一無二の帰結を有ち得ないのは、必ずしも誤謬の有無・程度・種類の事実上の[#「事実上の」に傍点]相違から来る制限ではなく、そのような事実上の制限を撤して原理的に理想状態を考えて見てもなお、理論はその問題の把握――問題提出――の如何によって、原理的に[#「原理的に」に傍点]夫々異った軌道を歩むように出来ている場合があるのである*。――如何なる問題を把握すべきか、如何なる問題を如何に提出すべきか、という問題の選択[#「問題の選択」に傍点]は、であるから誤謬の訂正[#「誤謬の訂正」に傍点]という仕方によっては一義的に決定出来ない。このことが今明らかとなった。誤謬の訂正の代表的なるものは矛盾の排除[#「矛盾の排除」に傍点]・整合[#「整合」に傍点]であろう。問題把握の動機[#「動機」に傍点]は、矛盾の排除乃至整合の地盤である所謂分析論理と呼ばれている平面の上では、失われて了うと云うのである。理論に向って問題を提出するものは正に、歴史社会的存在の運動の必然性の外にはない、この必然性が初めて特定の歴史的段階に対して特定の問題を提出することが出来るのである**。
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* 哲学的乃至歴史的諸科学――之を性格的諸科学と名づける理由がある――は凡て、この場合にぞくする。吾々が之から取り扱うものは専らこの諸科学に就いてである。
** 「問題に関する理論」に於て私はこの点を明らかにした。
[#ここで字下げ終わり]
そこで一つの疑問が残される。歴史的運動の必然性によって、甲の歴史的段階で問題甲が提出され、次の乙の歴史的段階で問題乙が提出され、かくて理論甲に理論乙が続いたとしよう。歴史的段階甲―乙と同じく、理論甲―乙も(問題甲―乙も)歴史的に連続する。理論甲が歴史的に理論乙へ運動したのである。併し之は理論の歴史的[#「歴史的」に傍点]連続ではあるが、直ぐ様それが、理論の理論的――特定の意味で論理的[#「論理的」に傍点]――連続であるのではない。それは理論が恐らく時代の推移と共に歴史的に[#「歴史的に」に傍点]変化したのではあったであろう、併しそれだけでは、後来の理論が従来の理論を論理的[#「論理的」に傍点]に如何に止揚し得たか、の説明にはまだならない。例えば一つの思想の或る意味での階級性を指摘することと、依って夫の虚偽性を指摘することとは、一応区別され得るが、今までの処では場合が前者に止っていてまだ後者への移り行きが説かれていなかった、と云うのである。残された疑問はであるから、次の課題を課する。
問題選択に於ける歴史的必然性[#「歴史的必然性」に傍点](従って乃至)遊
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