《しづく》のポタリと墜《お》つるは、誰《た》が水を汲みて去りしにや。
更に行《ゆ》きて畑《はたけ》の中に佇《たゝず》む。月は今《いま》彼方《かなた》の大竹薮《おほだけやぶ》を離れて、清光《せいくわう》溶々《やう/\》として上天《じやうてん》下地《かち》を浸し、身は水中に立つの思《おもひ》あり。星の光何ぞ薄《うす》き。氷川《ひかわ》の森も淡くして煙《けぶり》と見《み》ふめり。静かに立ちてあれば、吾《わが》側《そば》なる桑の葉、玉蜀黍《たうもろこし》の葉は、月光《げつくわう》を浴びて青光《あおびか》りに光り、棕櫚《しゆろ》はさや/\と月に囁《さゝ》やく。虫の音《ね》滋《しげ》き草を踏めば、月影《つきかげ》爪先《つまさき》に散り行く。露のこぼるゝなり。籔の辺《あた》りには頻《しき》りに鳥の声す。月の明《あか》きに彼等の得眠《えねぶ》らぬなるべし。
開《ひら》けたる所は月光《げつくわう》水《みづ》の如く流れ、樹下《じゆか》は月光《げつくわう》青《あを》き雨の如くに漏りぬ。歩《ほ》を返《か》へして、木蔭を過《す》ぐるに、灯火《ともしび》のかげ木《こ》の間《ま》を漏《も》れて、人の夜涼《やれう》に
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