たくない。しかしながら大逆罪の企に万不同意であると同時に、その企の失敗を喜ぶと同時に、彼ら十二名も殺したくはなかった。生かしておきたかった。彼らは乱臣賊子の名をうけても、ただの賊ではない、志士である。ただの賊でも死刑はいけぬ。まして彼らは有為《ゆうい》の志士である。自由平等の新天新地を夢み、身を献《ささ》げて人類のために尽さんとする志士である。その行為はたとえ狂《きょう》に近いとも、その志は憐《あわれ》むべきではないか。彼らはもと社会主義者であった。富の分配の不平等に社会の欠陥を見て、生産機関の公有を主張した、社会主義が何が恐《こわ》い? 世界のどこにでもある。しかるに狭量神経質の政府は、ひどく気にさえ出して、ことに社会主義者が日露戦争に非戦論を唱うるとにわかに圧迫を強くし、足尾騒動から赤旗事件となって、官権と社会主義者はとうとう犬猿の間となってしまった。諸君、最上の帽子は頭にのっていることを忘るる様な帽子である。最上の政府は存在を忘れらるる様な政府である。帽子は上にいるつもりであまり頭を押つけてはいけぬ。我らの政府は重いか軽いか分らぬが、幸徳君らの頭にひどく重く感ぜられて、とうとう彼
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