ほどもない、しかも手も足も出ぬ者どもに対する怖《おび》えようもはなはだしいではないか。人間弱味がなければ滅多《めった》に恐がるものでない。幸徳ら瞑《めい》すべし。政府が君らを締め殺したその前後の遽《あわ》てざまに、政府の、否《いな》、君らがいわゆる権力階級の鼎《かなえ》の軽重は分明に暴露されてしもうた。
こんな事になるのも、国政の要路に当る者に博大なる理想もなく、信念もなく人情に立つことを知らず、人格を敬することを知らず、謙虚忠言を聞く度量もなく、月日とともに進む向上の心もなく、傲慢にしてはなはだしく時勢に後れたるの致すところである。諸君、我らは決して不公平ではならぬ。当局者の苦心はもとより察せねばならぬ。地位は人を縛り、歳月は人を老いしむるものである。廟堂の諸君も昔は若かった、書生であった、今は老成人である。残念ながら御《お》ふるい。切棄《きりす》てても思想は※[#「白+激のつくり」、第3水準1−88−68]々《きょうきょう》たり。白日の下に駒を駛《は》せて、政治は馬上提灯の覚束《おぼつか》ないあかりにほくほく瘠馬《やせうま》を歩ませて行くというのが古来の通則である。廟堂の諸君は頭
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