名はお駒《こま》とて少し跳《は》ねたる三五の少女《おとめ》はことにわれと仲よしなり。その下には今の奥様の腹にて、二人《ふたり》の子供あれど、こは問題のほかとしてここに老女の幾《いく》とて先の奥様の時より勤め、今の奥様の輿入《こしいれ》後奥台所の大更迭を行われし時も中将の声がかりにて一人《ひとり》居残りし女、これが終始浪子のそばにつきてわれに好意の乏しきが邪魔なれど、なあに、本人の浪子さえ攻め落とさばと、千々岩はやがて一年ばかり機会をうかがいしが、今は待ちあぐみてある日宴会帰りの酔《え》いまぎれ、大胆にも一通の艶書《えんしょ》二重《ふたえ》封《ふう》にして表書きを女|文字《もじ》に、ことさらに郵便をかりて浪子に送りつ。
その日命ありてにわかに遠方に出張し、三月あまりにして帰れば、わが留守に浪子は貴族院議員|加藤《かとう》某《なにがし》の媒酌《ばいしゃく》にて、人もあるべきにわが従弟《いとこ》川島武男と結婚の式すでに済みてあらんとは! 思わぬ不覚をとりし千々岩は、腹立ちまぎれに、色よき返事このようにと心に祝いて土産《みやげ》に京都より買《こ》うて来し友染縮緬《ゆうぜんちりめん》ずたずたに
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