しょ》の前にいたり、うなずきて立ち止まり、垣《かき》の小門の閂《かんぬき》を揺《うご》かせば、手に従って開きつ。正面には年経たる石塔あり。士官はつと入りて見回し、横手になお新しき墓標の前に立てり。松は墓標の上に翠蓋《すいがい》をかざして、黄ばみ紅《あか》らめる桜の落ち葉点々としてこれをめぐり、近ごろ立てしと覚ゆる卒塔婆《そとば》は簇々《ぞくぞく》としてこれを護《まも》りぬ。墓標には墨痕《ぼっこん》あざやかに「片岡浪子の墓」の六字を書けり。海軍士官は墓標をながめて石のごとく突っ立ちたり。
 やや久しゅうして、唇ふるい、嗚咽《おえつ》は食いしばりたる歯を漏れぬ。
       *
 武男は昨日帰れるなり。
 五か月|前《ぜん》山科《やましな》の停車場に今この墓標の下《もと》に臥《ふ》す人と相見し彼は、征台の艦中に加藤子爵夫人の書に接して、浪子のすでに世にあらざるを知りつ。昨日帰りし今日は、加藤子爵夫人を訪《と》いて、午《ひる》過ぐるまでその話に腸《はらわた》を断ち、今ここに来たれるなり。
 武男は墓標の前に立ちわれを忘れてやや久しく哭《こく》したり。
 三年の幻影はかわるがわる涙の狭霧《さ
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