「ばあや――」
「お、お、お嬢様、ばあやもごいっしょに――」
泣きくずるる幾をわずかに次へ立たしたるあとは、しんとして水のごとくなりぬ。浪子は口を閉じ、目を閉じ、死の影は次第にその面《おもて》をおおわんとす。中将はさらに進みて
「浪、何も言いのこす事はないか。――しっかりせい」
なつかしき声に呼びかえされて、わずかに開ける目は加藤子爵夫人に注ぎつ。夫人は浪子の手を執り、
「浪さん、何もわたしがうけ合った。安心して、お母さんの所においで」
かすかなる微咲《えみ》の唇に上ると見れば、見る見る瞼《まぶた》は閉じて、眠るがごとく息絶えぬ。
さし入る月は蒼白《あおじろ》き面《おもて》を照らして、微咲《えみ》はなお唇に浮かべり。されど浪子は永《なが》く眠れるなり。
*
三日を隔てて、浪子は青山《あおやま》墓地に葬られぬ。
交遊広き片岡中将の事なれば、会葬者はきわめておおく、浪子が同窓の涙をおおうて見送れるも多かりき。少しく子細を知れる者は中将の暗涙を帯びて棺側に立つを見て断腸の思いをなせしが、知らざる者も老女の幾がわれを忘れて棺にすがり泣き口説《くど》けるに袖《
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