れが――あの千々岩《ちぢわ》が!」
 「エ、千々岩! あの千々岩が! どうして? 戦死《うちじに》かい?」
 「戦死《せんし》将校のなかに名が出ているわ。――いい気味!」
 「またそんなはしたないことを。――そうかい。あの千々岩が戦死《うちじに》したのかい! でもよく戦死《うちじに》したねエ、千鶴さん」
 「いい気味! あんな人は生きていたッて、邪魔になるばかりだわ」
 加藤子爵夫人はしばし黙然として沈吟しぬ。
 「死んでもだれ一人泣いてくれる者もないくらいでは、生きがいのないものだね、千鶴さん」
 「でも川島のおばあさんが泣きましょうよ。――川島てば、お母さま、お豊《とよ》さんがとうと逃げ出したんですッて」
 「そうかい?」
 「昨日《きのう》ね、また何か始めてね、もうもうこんな家《うち》にはいないッて、泣き泣き帰っちまいましたんですッて。ほほほほほほようすが見たかったわ」
 「だれが行ってもあの家《うち》では納まるまいよ、ねエ千鶴さん」
 母子《おやこ》相見て言葉途絶えぬ。
       *
 千々岩は死せるなり。千鶴子|母子《おやこ》が右の問答をなしつるより二十日《はつか》ばかり
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