》になってくだすったのですよ。その先達に初歩《ふみはじめ》を教《おそ》わってこの道に入りましてから、今年でもう十六年になりますが、杖《つえ》とも思うは実にこの書《ほん》で、一日もそばを放さないのでございますよ。霊魂不死という事を信じてからは、死を限りと思った世の中が広くなりまして、天の父を知ってからは親を失ってまた大きな親を得たようで、愛の働きを聞いてからは子を失《な》くしてまたおおぜいの子を持った心地《こころもち》で、望みという事を教えられてから、辛抱をするにも楽しみがつきましてね――
私がこの書《ほん》を読むようになりましたしまつはまあざッとこんなでございますよ」
かく言い来たりて、老婦人は熱心に浪子の顔打ちまもり、
「実は、御様子はうすうす承っていましたし、ああして時々浜でお目にかかるのですから、ぜひ伺いたいと思う事もたびたびあったのですが、――それがこうふとお心やすくいたすようになりますと、またすぐお別れ申すのは、まことに残念でございますよ。しかしこう申してはいかがでございますが、私にはどうしても浅日《ちょっと》のお面識《なじみ》の方とは思えませんよ。どうぞ御身《おみ》を
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