したのですよ。
そうするうちに、良人も陸軍に召し出さるるようになって、また箱根をこえて、もう東京ですね、その東京に帰ったのが、さよう、明治五年の春でした。その翌春良人は洋行を命ぜられましてね。朝夕《ちょうせき》の心配はないようになったのですが、姑《しゅうと》の気分は一向に変わりませず――それはいいのでございますが、気にかかる父の行くえがどうしてもわかりません。
良人が洋行しましたその秋、ひどい雨の降る日でしたがね、小石川の知己《しるべ》までまいって、その家《うち》で雇ってもらった車に乗って帰りかけたのです。日は暮れます、ひどい雨風で、私は幌《ほろ》の内《うち》に小さくなっていますと、車夫《くるまや》はぼとぼとぼとぼと引いて行きましょう、饅頭笠《まんじゅうがさ》をかぶってしわだらけの桐油合羽《とうゆがっぱ》をきているのですが、雨がたらたらたらたら合羽から落ちましてね、提灯《ちょうちん》の火はちょろちょろ道の上に流れて、車夫《くるまや》は時々ほっほっ太息《といき》をつきながら引いて行くのです。ちょうど水道橋にかかると、提灯がふっと消えたのです。車夫《くるまや》は梶棒《かじぼう》をおろし
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