て歩みぬ。
 たちまち浪子は立ちどまりぬ。浜尽き、岩起これるなり。岩に一条の路《みち》あり、そをたどれば滝の不動にいたるべし。この春浪子が良人《おっと》に導かれて行きしところ。
 浪子はその路をとりて進みぬ。

     四の四

 不動祠《ふどうし》の下まで行きて、浪子は岩を払うて坐《ざ》しぬ。この春|良人《おっと》と共に坐したるもこの岩なりき。その時は春晴うらうらと、浅碧《あさみどり》の空に雲なく、海は鏡よりも光りき。今は秋陰|暗《あん》として、空に異形《いぎょう》の雲満ち、海はわが坐す岩の下まで満々とたたえて、そのすごきまで黯《くろ》き面《おもて》を点破する一|帆《ぱん》の影だに見えず。
 浪子はふところより一通の書を取り出《いだ》しぬ。書中はただ両三行、武骨なる筆跡の、しかも千万語にまさりて浪子を思いに堪《た》えざらしめつ。「浪子さんを思わざるの日は一日も無之候《これなくそろ》」。この一句を読むごとに、浪子は今さらに胸迫りて、恋しさの切らるるばかり身にしみて覚ゆるなりき。
 いかなればかく枉《まが》れる世ぞ。身は良人《おっと》を恋い恋いて病よりも思いに死なんとし、良人はかくも想
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