祭りて、浪子を思うごとにさながら遠き野末の悲歌を聞くごとく、一種なつかしき哀《かな》しみを覚えしなり。
 田崎来たり見舞いぬ。武男はよりて母の近況を知りまたほのかに浪子の近況《ようす》を聞きぬ。(武男の気をそこなわんことを恐れて、田崎はあえて山木の娘の一条をばいわざりき)武男は浪子の事を聞いて落涙し、田崎が去りし後も、松風さびしき湘南《しょうなん》の別墅《べっしょ》に病める人の面影《おもかげ》は、黄海の戦いとかわるがわる武男が宵々《しょうしょう》の夢に入りつ。
 田崎が東に帰りし後|数日《すじつ》にして、いずくよりともなく一包みの荷物武男がもとに届きぬ。
       *
 武男は今その事を思えるなり。

     三の二

 武男が思えるはこれなり。
 一週|前《ぜん》の事なりき。武男は読みあきし新聞を投げやりて、ベッドの上にあくびしつつ、窓外を打ちながめぬ。同室の士官|昨日《きのう》退院して、室内には彼|一人《ひとり》なりき。時は黄昏《たそがれ》に近く、病室はほのぐらくして、窓外には秋雨滝のごとく降りしきりぬ。隣室の患者に電気かくるにやあらん。じじの響き絶え間なく雨に和して、うたた
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