怒りしが、世間の様子を聞けば、田舎《いなか》よりその子の遠征を見送らんと出《い》で来る老婆、物を贈り書を送りてその子を励ます母もありというに、子は親に怒り親は子を憤りて一通の書だに取りかわさず、彼は戦地にわれは帝都に、おのおの心に不快の塊《かたまり》をいだいて、もしこのままに永別となるならば、と思うとはなく、ほのかに感じたる武男が母は、ついにののしりののしり我《が》を折りて引きつづき二通の書を戦地にあるその子にやりぬ。
折りかえして戦地より武男が返書は来たれり。返書来たりてより一月あまりにして、一通の電報は佐世保の海軍病院より武男が負傷を報じ来《こ》しぬ。さすがに母が電報をとりし手はわなわなと打ち震いつ。ほどなくその負傷は命《めい》に関するほどにもあらざる由を聞きたれど、なお田崎を遠く佐世保にやりてそのようすを見させしなりき。
二の四
田崎が佐世保より帰りて、子細に武男のようすを報ぜるより、母はやや安堵《あんど》の胸をなでけるが、なおこの上は全快を待ちて一応顔をも見、また戦争済みたらば武男がために早く後妻《こうさい》を迎うるの得策なるを思いぬ。かくして一には浪子を武男
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