あるいはわが衷《うち》なるあるものよりわが非を示されて、われとわが良心の前に悔悟の膝《ひざ》を折る時なり。灸所《きゅうしょ》を刺せば、猛獣は叫ぶ。わが非を知れば、人は怒る。武男が母は、これがために抑《おさ》え難き怒りはなおさらに悶《もん》を加えて、いよいよ武男の怒るべく、浪子の悪《にく》むべきを覚えしなり。武男は席をけって去りぬ。一日また一日、彼は来たりて罪を謝するなく、わびの書だも送り来たらず。母は胸中の悶々を漏らすべきただ一の道として、その怒りをほしいままにして、わずかに自ら慰めつ。武男を怒り、浪子を怒り、かの時を思い出《い》でて怒り、将来を想《おも》うて怒り、悲しきに怒り、さびしきに怒り、詮方《せんかた》なきにまた怒り、怒り怒りて怒りの疲労《つかれ》にようやく夜《よ》も睡《ねぶ》るを得にき。
川島家にては平常《つね》にも恐ろしき隠居が疳癪《かんしゃく》の近ごろはまたひた燃えに燃えて、慣れしおんなばらも幾たびか手荷物をしまいかける間《ま》に、朝鮮事起こりて豊島牙山《ほうとうがざん》の号外は飛びぬ。戦争に行くに告別《いとまごい》の手紙の一通もやらぬ不埒《ふらち》なやつと母は幾たびか
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