「時に田崎|君《さん》、娘がお世話になっているが、困ったやつで、どうです、御隠居のお気には入りますまいな」
 浪子が去られしより、一月あまりたちて、山木は親しく川島|未亡人《いんきょ》の薫陶を受けさすべく行儀見習いの名をもって、娘お豊《とよ》を川島家に入れ置きしなりき。
 田崎はほほえみぬ。何か思い出《い》でたるなるべし。

     二の三

 田崎はほえみぬ。川島未亡人は眉《まゆ》をひそめしなり。
 武男が憤然席をけ立てて去りしかの日、母はこの子の後ろ影《すがた》をにらみつつ叫びぬ。
 「不孝者めが! どうでも勝手にすッがええ」
 母は武男が常によく孝にして、わが意を迎うるに踟※[#「※」は「足+厨」、第3水準1−92−39、164−7]《ちちゅ》せざるを知りぬ。知れるがゆえに、その浪子に対するの愛もとより浅きにあらざるを知りつつも、その両立するあたわざる場合には、一も二もなくかの愛をすててこの孝を取るならんと思えり。思えるがゆえに、その仕打ちのわれながらむしろ果断に過ぐるを思わざるにあらざりしも、なお家のため武男のためと謂《い》いつつ、独断をもて浪子を離別せるなり。武男が憤りの意
前へ 次へ
全313ページ中224ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング