い、とわたしは思うが。なあ、田崎|君《さん》」
 田崎は打ち案じ顔に「旦那はあの通り正直《まっすぐ》なお方だから、よし御隠居の方がわるいにもしろ、自分の仕打ちもよくなかったとそう思っていなさる様子でね。それに今度わたしがお見舞に行ったンでまあ御隠居のお心も通ったというものだから、仲直りも何もありやしないが、しかし――」
 「戦争中《いくささなか》の縁談もおかしいが、とにかく早く奥様を迎《よ》びなさるのだね。どうです、旦那は御隠居と仲直りはしても、やっぱり浪子さんは忘れなさるまいか。若い者は最初のうちはよく強情を張るが、しかし新しい人が来て見るとやはりかわゆくなるものでね」
 「いやそのことは御隠居も考えておいでなさるようだが、しかし――」
 「むずかしかろうというのかね」
 「さあ、旦那があんな一途《いちず》な方《かた》だから、そこはどうとも」
 「しかしお家のため、旦那のためだから、なあ田崎|君《さん》」
 話はしばし途切れつ。二階には演説や終わりつらん、拍手の音盛んに聞こゆ。障子の夕日やや薄れて、ラッパの響《おと》耳に冷ややかなり。
 山木は杯を清めて、あらためて田崎にさしつつ
 
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