かくも川島家のためだから仕方がないといったようなもので。はあそうですか、近ごろはまた少しはいい方で、なるほど、逗子に保養に行っていなさるかね。しかしあの病気ばかりはいくらよく見えてもどうせ死病だて。ところで武男――いや若旦那はまだ怒《おこ》っていなさるかね」
 椀《わん》の蓋《ふた》をとれば松茸《まつだけ》の香の立ち上りて鯛《たい》の脂《あぶら》の珠《たま》と浮かめるをうまげに吸いつつ、田崎は髯《ひげ》押しぬぐいて
 「さあ、そこですがな。それはもうもとをいえば何もお家のためでしかたもないといったものの、なあ山木|君《さん》、旦那の留守に何も相談なしにやっておしまいなさるというは、御隠居も少し御気随が過ぎたというものでな。実はわたしも旦那のお帰りまでお待ちなさるようにと申し上げて見たのじゃが、あのお気質で、いったんこうと言い出しなすった事は否応《いやおう》なしにやり遂げるお方だから、とうとうあの通りになったンで。これは旦那がおもしろく思いなさらぬももっともじゃとわたしは思うくらい。それに困った人はあの千々岩《ちぢわ》さん――たしかもう清国《あっち》に渡《い》ったように聞いたですが」
 
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