もお見舞い申さんと、堪忍袋《かんにんぶくろ》がたまらん」
 「それこそ袋のなかに入るも同然、帰路を絶たれたらどうです?」まじめに横槍《よこやり》を入るるは候補生の某なり。
 「何、帰路を絶つ? 望む所だ。しかし悲しいかな君の北洋艦隊はそれほど敏捷《びんしょう》にあらずだ。あえてけちをつけるわけじゃないが、今度も見参はちとおぼつかないね。支那人の気の長いには実に閉口する」
 おりから靴音の近づきて、たけ高き一少尉入り口に立ちたり。
 短小少尉はふり仰ぎ「おお航海士、どうだい、なんにも見えんか」
 「月ばかりだ。点検が済んだら、すべからく寝て鋭気を養うべしだ」言いつつ菓子皿に残れるカステーラの一片を頬《ほお》ばり「むむ、少し……甲板《かんぱん》に出ておると……腹が減るには驚く。――従卒《ボーイ》、菓子を持って来い」
 「君も随分食うね」と赤きシャツを着たる一少尉は微笑《ほほえ》みつ。
 「借問《しゃもん》す君はどうだ。菓子を食って老人組を罵倒《ばとう》するは、けだしわが輩|士官次室《ガンルーム》の英雄の特権じゃないか。――どうだい、諸君、兵はみんな明日《あす》を待ちわびて、目がさえて困ると
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