それに若い者はいったん、思い込んだようでも少したつと案外気の変わるものですからね」
 「そうじゃ」
 「少しぐらいのかあいそうや気の毒は家の大事には換えられませんからね」
 「おおそうじゃ」
 「それに万一、子供でもできなさると、それこそ到底――」
 「いや、そこじゃ」
 膝乗り出して、がっくりと一つうなずける叔母のようすを見るより、千々岩は心の膝をうちて、翻然として話を転じつ。彼はその注《つ》ぎ込みし薬の見る見る回るを認めしのみならず、叔母の心田《しんでん》もとすでに一種子の落ちたるありて、いまだ左右《とこう》の顧慮におおわれいるも、その土《ど》を破りて芽ぐみ長じ花さき実るにいたるはただ時日の問題にして、その時日も勢いはなはだ長からざるべきを悟りしなりき。
 その真質において悪人ならぬ武男が母は、浪子を愛せぬまでもにくめるにはあらざりき。浪子が家風、教育の異なるにかかわらず、なるべくおのれを棄《す》てて姑《しゅうと》に調和せんとするをば、さすがに母も知り、あまつさえそのある点において趣味をわれと同じゅうせるを感じて、口にしかれど心にはわが花嫁のころはとてもあれほどに届かざりしとひそか
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