さん》に対しても、また武男君に対しても、このまま黙って見ていられないのです。実にいわば川島家の一大事ですからね、顔をぬぐってまいったわけで――いや、叔母|様《さん》、この肺病という病《やつ》ばかりは恐ろしいもんですね、叔母|様《さん》もいくらもご存じでしょう、妻《さい》の病気が夫に伝染して一家総だおれになるはよくある例《ためし》です、わたくしも武男君の上が心配でなりませんて、叔母|様《さん》から少し御注意なさらんと大事になりますよ」
 「そうじゃて。わたしもそいが恐ろしかで、逗子に行くな行くなて、武にいうんじゃがの、やっぱい聞かんで、見なさい――」
 手紙をとりて示しつつ「医者がどうの、やれ看護婦がどうしたの、――ばかが、妻《さい》の事ばかい」
 千々岩はにやり笑いつ。「でも叔母|様《さん》、それは無理ですよ、夫婦に仲のよすぎるということはないものです。病気であって見ると、武男君もいよいよこらそうあるべきじゃありませんか」
 「それじゃてて、妻《さい》が病気すッから親に不孝をすッ法はなかもんじゃ」
 千々岩は慨然として嘆息し「いや実に困った事ですな。せっかく武男君もいい細君ができて、叔
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