るようなことはありますまいね」
「そんな事はない、ないはずだ。母《おっか》さんも千々岩の事じゃ怒《おこ》っていなさるからね」
浪子は思わず吐息をつきつ。
「本当に、こんな病気になってしまって、おかあさまもさぞいやに思っていらッしゃいましょうねエ」
武男ははたと胸を衝《つ》きぬ。病める妻には、それといわねど、浪子が病みて地を転《か》えしより、武男は帰京するごとに母の機嫌《きげん》の次第に悪《あ》しく、伝染の恐れあればなるべく逗子には遠ざかれとまで戒められ、さまざまの壁訴訟の果ては昂《こう》じて実家《さと》の悪口《わるくち》となり、いささかなだめんとすれば妻をかばいて親に抗するたわけ者とののしらるることも、すでに一再に止《とど》まらざりけるなり。
「はははは、浪さんもいろいろな心配をするね。そんな事があるものかい。精出して養生して、来春《らいはる》はどうか暇を都合して、母《おっか》さんと三人|吉野《よしの》の花見にでも行くさ――やアもうここまで来てしまッた。疲れたろう。そろそろ帰らなくもいいかい」
二人は浜尽きて山起こる所に立てるなり。
「不動まで行きましょう、ね――イイエち
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