ましていらッしたわ。ほほほほ手が震えて、杯がどうしても持てなかったンですもの」
 「大分《だいぶ》おにぎやかでございますねエ」といくはにこにこ笑《え》みつつ鉄瓶《てつびん》を持ちて再び入り来つ。「ばあやもこんなに気分が清々《せいせい》いたしたことはありませんでございますよ。ごいっしょにこうしておりますと、昨年伊香保にいた時のような心地《こころもち》がいたしますでございますよ」
 「伊香保はうれしかったわ!」
 「蕨《わらび》狩りはどうだい、たれかさんの御足《おみあし》が大分重かッたっけ」
 「でもあなたがあまりお急ぎなさるんですもの」と浪子はほほえむ。
 「もうすぐ蕨の時候になるね。浪さん、早くよくなッて、また蕨|狩《と》りの競争しようじゃないか」
 「ほほほ、それまでにはきっとなおりますよ」

     四の四

 明くる日は、昨夜《ゆうべ》の暴風雨《あらし》に引きかえて、不思議なほどの上天気。
 帰京は午後と定めて、午前の暖かく風なき間《ま》を運動にと、武男は浪子と打ち連れて、別荘の裏口よりはらはら松の砂丘《すなやま》を過ぎ、浜に出《い》でたり。
 「いいお天気、こんなになろうとは
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