「おほほほほ。そんなに御夫婦げんかを遊ばしちゃいけません。さ、さ、お仲直りのお茶でございますよ。ほほほほ」
二
前回かりに壮夫《わかもの》といえるは、海軍少尉|男爵《だんしゃく》川島武男《かわしまたけお》と呼ばれ、このたび良媒ありて陸軍中将子爵|片岡毅《かたおかき》とて名は海内《かいだい》に震える将軍の長女|浪子《なみこ》とめでたく合※[#「※」は「丞」の「一」のかわりに「巳」、第4水準2−3−54、13−11]《ごうきん》の式を挙《あ》げしは、つい先月の事にて、ここしばしの暇を得たれば、新婦とその実家よりつけられし老女の幾《いく》を連れて四五日|前《ぜん》伊香保《いかほ》に来たりしなり。
浪子は八歳《やっつ》の年|実母《はは》に別れぬ。八歳《やっつ》の昔なれば、母の姿貌《すがたかたち》ははっきりと覚えねど、始終|笑《えみ》を含みていられしことと、臨終のその前にわれを臥床《ふしど》に呼びて、やせ細りし手にわが小さき掌《たなぞこ》を握りしめ「浪や、母《かあ》さんは遠《とおー》いとこに行くからね、おとなしくして、おとうさまを大事にして、駒《こう》ちゃんをかあいがってやら
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