りはしなかったの」
 「一人《ひとり》あったわ。でもね、松平さんがきらって、このごろは妾《めかけ》を置いたり、囲い者をしたり、乱暴ばかりするからね、萩原さんのおとうさんがひどく怒《おこ》つてね、そんな薄情な者には、娘はやって置かれぬてね、とうとう引き取ってしまったんですッて」
 「まあ、かあいそうね。――どうしてきらうのでしょう、本当にひどいわ」
 「腹が立つのねエ。――逆さまだとまだいいのだけど、舅姑《しゅうと》の気に入っても良人《おっと》にきらわれてあんな事になっては本当につらいでしょうねエ」
 浪子は吐息しつ。
 「同じ学校に出て同じ教場で同じ本を読んでも、みんなちりぢりになって、どうなるかわからないものねエ。――お千鶴さん、いつまでも仲よく、さきざき力になりましょうねエ」
 「うれしいわ!」
 二人《ふたり》の手はおのずから相結びつ。ややありて浪子はほほえみ、
 「こんなに寝ていると、ね、いろいろな事を考えるの。ほほほほ、笑っちゃいやよ。これから何年かたッてね、どこか外国と戦争が起こるでしょう、日本が勝つでしょう、そうするとね、お千鶴さん宅《とこ》の兄さんが外務大臣で、先方へ乗
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