手《ひだり》の障子には、ひょろひょろとした南天の影|手水鉢《ちょうずばち》をおおうてうつむきざまに映り、右手には槎※[#「※」は「木へん」+「牙」、第4水準2−14−40、81−7]《さが》たる老梅の縦横に枝をさしかわしたるがあざやかに映りて、まだつぼみがちなるその影の、花は数うべくまばらなるにも春の浅きは知られつべし。南縁《なんえん》暄《けん》を迎うるにやあらん、腰板の上に猫《ねこ》の頭《かしら》の映りたるが、今日の暖気に浮かれ出《い》でし羽虫《はむし》目がけて飛び上がりしに、捕《と》りはずしてどうと落ちたるをまた心に関せざるもののごとく、悠々としてわが足をなむるにか、影なる頭《かしら》のしきりにうなずきつ。微笑を含みてこの光景《ありさま》を見し浪子は、日のまぶしきに眉《まゆ》を攅《あつ》め、目を閉じて、うっとりとしていたりしが、やおらあなたに転臥《ねがえり》して、編みかけの韈《くつした》をなで試みつつ、また縦横に編み棒を動かし始めぬ。
 ドシドシと縁に重《おも》やかなる足音して、矮《たけひく》き仁王《におう》の影障子を伝い来つ。
 「気分はどうごあんすな?」
 と枕べにすわるは姑《
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